【スポーツbiz】平昌五輪、なぜ“そんな時間”に競技本番? テレビマネーに左右される選手たち
いてつく空気、刺すような強風。平昌五輪で10日夜に行われたスキージャンプ・男子個人ノーマルヒルは自然の脅威に翻弄された。
風は方向が定まらず、優勝候補のスイス、シモン・アマンが幾度もスタートをやめて厚い毛布で身体を覆うシーンがテレビに大写しされた。オリンピック以外の大会なら、競技そのものが中止されていただろう。
選手への押しつけ
冬のオリンピックは、しばしば自然との闘いが醍醐味(だいごみ)だといわれる。しかし、それも限度がある。選手に影響がでるようでは本末転倒ではないか。
競技開始は午後9時35分。競技本番を迎える時間ではない。なぜ、こんな時間に始めなければならないのか。
そこにテレビマネーという厄介な存在の介在がある。
ジャンプが盛んなのはヨーロッパ。注目度は高い。ならばヨーロッパでの視聴に適した時間から競技を始めればいい。平昌の午後9時35分は、ヨーロッパ中央部なら午後1時35分にあたる。土曜日の昼下がりでテレビ観戦にちょうどいい。視聴率を上げ、テレビ局とスポンサーを潤すことになろう。
同じように、ヨーロッパで人気が高いスピードスケートも午後8時からの競技開始。普通なら、もう競技が終わっている時間から始まり、その夜の遅い時間帯まで熱戦が続く。ヨーロッパ・シフトである。
迷惑を被ったのは、平昌とは時差のないはずの日本の選手たち。“時差調整”を行わなければならない事態となった。
また、米国で高い人気を誇るフィギュアスケートやスノーボード、フリースタイルスキーは午前10時に競技を始め、午後2時過ぎに結果が判明する時間帯で予定が組まれた。
これら競技は通常、夜に行われることが多い。なぜ、平昌では午前中にしたかといえば、つまりテレビの要求である。
いうまでもなく、照準は米国東部のゴールデンタイムに合わされている。
平昌午前10時はニューヨークの午後8時、ロサンゼルスの午後5時にあたる。ロスはちょっと楽しむには早い時間かもしれないが、米国などの有力選手たちが登場してくるのは遅い時間帯だ。開催国・韓国をはじめ、アジアの事情などまったく念頭にない。選手への押しつけもいとわない。
国際オリンピック委員会(IOC)の財源は“乱暴”にいうと、テレビ放送権とスポンサー料の二本立て。大ざっぱに放送権料48%、国内を含むスポンサー料35%、入場料15%、ライセンス2%である。
この最も多い放送権料の約50%を占めるのがアメリカ向けの契約料。米NBCユニバーサル(NBCU)がIOCとの間で交わした独占的な契約である。
NBCUは2011年に、IOCと総額43億8200万ドル(現在のレートで約4700億円)で14年ソチ、16年リオデジャネイロ、18年平昌、20年東京と4大会の米国での独占放送権を取得した。平昌に限れば9億6300万ドル、ソチより約24%増額となった。
20年東京にも時差?!
特筆すべきはその後である。NBCUは3年後の14年5月、32年大会まで6大会の権利を総額76億5000万ドルで獲得。発表が世界中を驚かせたことをよく覚えている。
なにしろ、NHKと民放のジャパンコンソーシアム(JC)が日本国内向けに契約した18年平昌から24年パリまで4大会の放送権料は1100億円。いかに巨額か分かるだろう。いや、1100億円とて厳しい経済環境にある民放にとって大きな金額に変わりない。
長期契約は当然、IOC財政を安定させる。IOCのトーマス・バッハ会長が感激してみせたのも無理はない。となれば、NBCUの意見が強くなっていくことは否定しようがない。
だが、安定財源が必要だとしても、選手を圧迫するようになってはならない。そして20年東京に影響してはならない。
IOC調整委員会のジョン・コーツ委員長は、東京で競泳決勝を午前中に行う可能性を示唆した。一方、日本水泳連盟は競泳決勝は夕方実施を模索する。あい譲らないなか、北京大会競泳や体操のように突如、午前決勝にならないともかぎらない。
平昌から東京、北京とアジアの存在感は増したものの、スポーツは欧米の力が強く、米国のテレビマネーが糸を引く。おもねれば東京に時差が生まれる。知恵を出しあわねば…。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)
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