小泉今日子はなぜ叩かれなかったのか 不倫がバレても「世間に謝らなくていい」

 
詰めかけた報道陣からの問いに「(自身の)ホームページに書いてあります」と答える小泉今日子(撮影・佐藤雄彦)

【ニッポンの謝罪道】 2月1日に小泉今日子がバーニングプロダクションからの独立を発表したが、それと同時に俳優・豊原功補と恋愛関係(=不倫関係)にあることを明かした。小泉は独身だが豊原は既婚者。小泉の発表から2日後、豊原は緊急会見を行い、「どんな石でも投げつけたい方は僕に向けて投げつけてくださいと、言いたい」と述べた。

 今回の小泉の発表と豊原の会見が画期的だった理由は「不倫を謝らない」点にある。小泉の発表後、複数の編集者からはこう訊かれた。

「なんで今回の小泉今日子の発表は叩かれなかったんですか? だって、よくよく考えれば単なる不倫宣言じゃないですか」

 これは実に重要な問いかけである。まさにその通りで、今回の件は過去の不倫騒動と比較すれば「それほど叩かれていない」状況にある。この差は一体なぜなのか。本連載の趣旨である「謝罪道」の根幹にもかかわることなので、今回はこれについて書いてみる。

◆不倫報道に猛バッシングは付き物だったが…

 2016年1月のベッキーと川谷絵音に端を発した「不倫報道」の連鎖は、毎度とんでもないバッシングが世間に巻き起こった。それこそ、不倫は重罪であるかのような扱いになったのである。週刊誌による不倫報道をテレビが後追いをして彼らを出演自粛に追い込むほか、政治家の場合は元衆議院議員の宮崎謙介氏に見られるように辞任にも追い込んだ。

 一方、小泉と豊原は、過去の騒動と比較すればそれほど叩かれていない。小泉と豊原の不倫宣言をメディアが叩かないのは、自称・芸能通の人々からすれば「バーニングへの忖度だろう」といった話になるだろうが、まぁ、事情はよく分からない。ゲスの勘繰りはしてもあまり意味がない。

◆小泉今日子は「勝った」

 今回の不倫暴露は小泉がブチかまし、豊原は「わざわざそこを明かさなくても……」と若干困惑しているように見えた。

 この時点で小泉は「勝った」。というのも、「常にタブーをぶち壊す小泉今日子」というイメージを今回も作り上げ、不倫へのバッシングを減らすことができたのだ。

 さらに世間に対して「覚悟を決めた女と煮え切らない男」というイメージをつけることができた。小泉と豊原の愛情は変わらないのかもしれないが、豊原については会見で見せたぶっきらぼうな態度も影響して「この人なんなの?」的な批判が多数上がる一方、小泉に対しては「さすがキョンキョン」といった声もある。

 結局「誰が不倫するか」というのが重要になってくるのである。イタリアの元首相・ベルルスコーニ氏がいくら不倫していようが「スケベなイタリア男だからしょうがないね」で終わりである。また、勝新太郎やビートたけしも散々女遊びを暴露しているが、「まぁ、勝さんだったら…」「たけしさんならば…」でなんとなくスルーされている。破天荒な人生を送ってきた男性であれば、不倫は「芸の肥やし」的に許されてきた。

 小泉といえば突然刈り上げにしたり、エイズ罹患疑惑が出たら「陰性」を示す検査報告書をTシャツにプリントして公表する。20歳年下の亀梨和也と交際をし、エッセイもヒットするし、永瀬正敏と結婚しても結婚式も新婚旅行もしなかった。こうした一般常識や「アイドル」の行動様式とは異なることをやり続けてきただけに、実際のところは「女版・ビートたけし」的な面もあった。

◆「小室ショック」で変わった世間の空気

 もうひとつ、小泉にはある追い風が吹いていた。2017年8月、斉藤由貴に24年ぶり3回目の不倫疑惑が報じられる。釈明会見ではボサボサの髪の毛と、のらりくらりとした的を射ない応答がいかにも「不思議ちゃん」ではあったが、最初の会見で嘘をついていたこともあり、評判は散々。NHK大河『西郷どん』の出演が予定されていたが降板となった。斉藤由貴ほどの破天荒な人物であっても昨年9月の段階では不倫が許されていなかったのだ。

 だが、小室哲哉の不倫疑惑を今年1月に週刊文春が報じたところ、明らかに空気が変わった。小室は会見で、妻・KEIKOの介護が大変だったことや自身の男性機能が弱いことなどを明かし、挙句の果てには引退を表明した。これに対しては「お前らが余計な詮索をしたせいだ!」「偉大なる才能を摘んだ」とばかりに文春に対する非難が殺到。2016年以来「文春砲」と持ち上げていた人間であろうとも今回は報じた文春を叩き、小室に同情した。

 多分、この騒動により「不倫報道」そのものの意味合いが変わってきたのだろう。世間様が「不倫」という悪いことをした人間を好き放題叩けると信じ込んでいたのが2016年から2018年初頭のこと。小室の件により「代償が不当に大きすぎる」「この報道に正義はあるのか?」「これまで不倫を厳しく断罪しすぎた」といった感覚を抱くようになった。

◆不倫がバレても世間に謝罪する必要なんてない

 こうした潮目の変化を読んだのかどうかは定かではないが、明らかに世間の空気が変わった後の小泉の不倫宣言である。

 だが、不倫の場合は女性の方が苛烈に叩かれる風潮がある昨今、斉藤由貴でさえも結局は世間様が作り出す「空気」に負ける中、今回の小泉は「小室ショック」後の空気に乗っかり見事にサラリと不倫を明かし、世間は「おっ、おぉぉ……」と反応するしかなかった。

 今回の小泉の対応というものは、「不倫は当事者と家族だけの問題」ということを突きつけ、世間に対して謝罪をする必要がない程度のことであることを白日の下に晒した。これでいいのである。小泉、豊原、そして豊原の妻子、そしてCMスポンサー等仕事関係者といった当事者とだけ色々決めればいいだけの話だ。豊原も会見なぞしないでよかったのだ。

 「謝罪道」の面では「本来謝る必要がなかったものを謝っていたいびつな時代の終了」をもたらした。これから不倫がバレた人は「世間に謝罪する必要はないと思います。あとはこちらの問題です」だけで乗り切ることができることになっただけに「謝罪しない」という今回の判断は画期的である。

【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は原則隔週水曜日。

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