【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(4)「土堤原則」を打ち破る
東日本大震災(平成23年)の大津波や強烈な揺れによる海岸堤防の破壊を耐え抜き、注目を集めた技研製作所の津波堤防・堤防強化工法「インプラント工法」(地中深く杭(くい)を連続して打ち込み「杭の壁」を造る)だが、その評価はすぐには会社の業績に反映しなかった。
大震災の復興需要が本格化する前は、全国的な公共工事の手控えなどが響き、平成24年2月の中間決算では、純利益が前年同期比で9割減となっていた。
しかし、翌25年8月期連結決算では、復興工事や南海トラフ地震対策の防災需要が拡大し、純利益が前期比で約75%増に転じた。
好転の背景には、国土交通省による初の「インプラント工法」の採用があった。これがきっかけとなり、東北から四国までの太平洋沿岸部で、震災の復旧・復興工事のみならず、南海トラフ地震対策のための海岸堤防などの需要が拡大した。
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マグニチュード9と国内最大規模の地震となった東日本大震災を受け、国は24年に「南海トラフ巨大地震」の被害想定を公表。高知県内は最大34メートルもの想定津波高が示され、想定死者数は約5万人にのぼった。
想定公表後、34メートルの想定津波高が示された高知県黒潮町では、人口流出や修学旅行の中止など社会不安が一時広がった。こうした高知県内の事情もあり、堤防は土で造るべきだとする「土堤原則」から既存の堤防に鉄材を入れる補強を許さなかった国交省が、原則を変えることになった。
「東日本大震災の惨状を国民が目の当たりにし、さらに、南海トラフ地震の想定も大幅に見直された。当時の県民感情などを考えると、迅速に工事を進める必要があった」と国交省の高知河川国道事務所の担当者は言う。
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24年秋、高知市西部の仁(に)淀(よど)川河口で、国交省は「インプラント工法」による既存堤防の耐震強化工事を行った。対象となったのは、地震による液状化が想定される約700メートルの区間。堤防の高さ(10メートル)は変えず、既存の堤防を中に挟む形で、堤防の海側と陸側に鋼鉄の矢板計2400本を地中に打ち込んで壁を造り、地面の液状化による堤防の倒壊防止を目指した。
「既存のコンクリートに直接打ち込める(インプラント工法の)技術には目を見張った。工事のスピードが想像以上に速い」と高知県も驚きを隠さなかった。
=敬称略
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首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男氏が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。
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