【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(5)環境配慮で工事速度もアップ

 
「地震対策に一刻も早くインプラント堤防を」と話す北村精男社長=高知市の技研製作所

 技研製作所が開発した無振動・無騒音の杭(くい)打ち機「サイレントパイラー」を駆使し、杭を連続して地中深く打ち込み壁を造る「インプラント工法」。平成23年の東日本大震災後、その採用件数が増え続けている。

 同社の調べによると、その数は今年3月末時点で333件にのぼっている。中には、岩手県釜石市・両石漁港の堤防のように、施工期間が約2年にわたる、インプラント工法としては例のなかった大規模工事への採用もあり、発注者側の工法への信頼感の高まりをうかがわせる。

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 採用件数の急速な伸びは、南海トラフ地震対策を急いだ国土交通省が高知市沿岸の海岸堤防の強化のため、24年に同工法を初採用したことが大きな契機となった。

 採用拡大は施工事例の多様化と関連している。東北での復旧・復興工事はもとより、南海トラフ地震の被害が心配される西日本での海岸堤防の耐震化・液状化防止、河川堤防の補強。首都圏では、直下地震対策としての湾岸埋め立て地の液状化対策、岸壁や橋梁(きょうりょう)、道路擁壁、鉄道盛土の耐震強化と広がりをみせる。

 その背景には、地中深く杭を打ち込むことによる強度の増強に加え、環境に配慮した工法としての優位性もあるようだ。「工事に要する場所がコンパクト。基本的に杭打ち機の幅を超えず、道路沿いの工事でも通行規制する必要が少ない。無振動、無騒音だから住宅の近くでも工事しやすい」。工事を発注した高知県や国交省の現地事務所は、こうした利点によって工事スピードが格段に上がったことを歓迎する。

 いつ起きてもおかしくないとされる首都直下や南海トラフの地震。その対策工事は「待ったなし」だけに、スピード感のある工法はうってつけだという。

 大震災後、国交省が策定した「防波堤の耐津波設計ガイドライン」で、検討会座長を務めた高知工科大学長の磯部雅彦は「地震後の津波到達時間が非常に短い静岡などでもインプラント工法を検討する必要がある」と指摘する。

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 インプラント工法への注目が高まる中、技研製作所は昨年、創業50年を迎え、同時に東証1部上場を果たした。高知県に本社を置く企業としては3社目、製造業では初である。

 上場前、「100億円企業から1兆円企業に」と目標を掲げ、社員を鼓舞した社長の北村精男(あきお)だが、今は「もう言うのはやめた」とする。工法への社会の期待の高まりとともに、関心は国土防災の実現に絞られているようだ。

=敬称略

 首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男氏が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。