【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(6)「建設の五大原則」に依拠した工法
「耐震性の高さのみならず、交通や住宅など周辺環境への工事の影響が小さい」。南海トラフ地震対策として、東日本大震災後に海岸堤防を強化してきた高知県の担当者は、技研製作所の「インプラント工法」(杭を連続して地中深く打ち込む)を、こう評価する。
周辺環境への影響の小ささは、無振動・無騒音の杭(くい)打ち機「サイレントパイラー」による工法の大きな特徴。実際、堤防強化工事の現場で杭打ちを見ていると、横を通る車道の騒音以上の音は聞こえてこない。杭打ちそのものはほぼ無音といってもいいほどだった。
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サイレントパイラーによるインプラント工法の特徴が十分に発揮された事例がある。
神奈川県鎌倉市の海岸沿いを走る国道134号。有名な観光ルートでもあり、1日の車の交通量は2万台を超える。このルートの海沿いの堤防が平成21年の台風の影響で崩壊し、道路に陥没箇所(かしょ)が生じた。
それ以前から、堤防の老朽化に伴う改修工事が検討されていたが、道路通行への影響が大きいことや、南側の砂浜には絶滅危惧種とされている生物(ユキヨモギなど)が生息していることなどから、「既設の堤防の撤去など大規模工事が必要な従来のフーチング工法(コンクリート構造物を地盤に載せる工法)による改修工事では影響が大きすぎる」として、地元住民と合意が得られない状況が続いていた。
この現場で、既存の堤防に鋼管を打ち込むインプラント工法が採用されることになり、地元住民と合意が成立。騒音や振動が抑えられることに加え、工事に要する場所が少なくてすむことから、工事現場は車道から2メートルほどしか離れていなかったにもかかわらず、車などの通行に影響を与えることなく、工事が進められた。
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技研製作所によると、インプラント工法を採用した工事では、工事期間中の周辺環境への影響が小さいことに加え、「完了後も、高潮などによる振動や音が格段に小さくなっているとの情報が住民から寄せられている」という。
こうした工事の諸環境への配慮は、技研製作所の「建設の五大原則」に依拠している。原則では、「いかなる工事も環境性、安全性、急速性、経済性、文化性に対し調和をもたらすべき」と規定。原則の実践と工法開発が相互に作用し合って進められており、工法への高い評価につながっているようだ。
=敬称略
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首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男氏が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。
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