【地球を掴め国土を守れ7】技研製作所の51年(7)堤防は生命と財産守る「責任構造物」
内閣府は平成24年、国内史上最大級のマグニチュード9の地震となった東日本大震災を教訓に、同規模の「南海トラフ巨大地震」の被害想定を公表した。
「最大死者数32万人」と大震災の16倍に及ぶ衝撃的な数字をマスメディアは驚きをもって報じた。
津波による死者数だけでも23万人。そして被災想定地域の防波堤は延長417キロのうち135キロがダメージを受けるとした。
こうした状況下で翌25年、国土交通省が「防波堤の耐津波設計ガイドライン」を策定した。
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ガイドラインでは、「大震災の死者の9割以上が津波による犠牲者。経済被害も甚大であった」と指摘。その上で、被害のひとつの要因となった「防波堤など港湾構造物の被害」について、「津波の巨大な圧力とともに、津波が防波堤などを越え、その背後で強い流れを生み出し、そのことが、(堤防や防波堤を支える)地盤を洗掘し、安定性を低下させた」と分析した。
そして、こうした被害の様相について、「防波堤の耐津波設計の考え方を根底から見直させるものであった」とし、今後発生が懸念される南海トラフ地震などの津波対策に触れて、「最低限人命を守るという目標のもとに、変形しつつも倒壊しない粘り強い構造」の実現を求めた。
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技研製作所の北村精男(あきお)社長は「こうした防波堤、堤防の構造的欠陥は、大震災の何年も前から指摘してきた」と強調する。
大震災から7年たった現在、同社が開発した、鉄の杭を地中深く差し込むことで、地震による液状化や津波による堤防などの倒壊を防ぐ「インプラント工法」は全国に広がっている。だが、国交省がガイドラインをまとめた時点では、「インプラント工法への認識はなかった」と、ガイドライン検討会座長を務めた高知工科大学長の磯部雅彦は打ち明ける。
土木の専門家らは、長年改良を重ねてきたフーチング工法(コンクリートの堤体を地盤の上に載せる)の発想から抜けきれなかったとする。東日本大震災の経験を経て、地盤と一体化するインプラント工法への理解が進みつつあるという。
長年既成概念と戦ってきたという北村は「堤防や防波堤が国民の生命や財産を守りぬく『責任構造物』であるべきという覚悟の不足が、従来工法の設計思想に表れていたのでないか」と語った。
=敬称略
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首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男氏が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。
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