【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(9)「震災前にインプラント工法が普及していたら…」
津波対策は、堤防か、避難か。この問いへの参考になる事例として、東日本大震災の被災地、岩手県釜石市のケースがある。
釜石では、湾口防波堤(最大水深63メートル)が大きな被害を受けたが、国土交通省などの調査によると、防波堤がなかった場合に想定された津波高約14メートルを8メートルまで低減させ、津波の到達時間を6分間遅らせた。
一方、学校や地域では地震、津波を学習したり、避難計画を立てるなど避難対策に取り組んでおり、小中学生約3千人のほぼ全員が自主的に避難した。
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これらの避難対策を指導した東京大大学院特任教授(災害社会工学)の片田敏孝は「住民の避難に、湾口防波堤が果たした役割は小さくなかった」と指摘。防波堤や堤防などハード設備の役割について、片田は「戦後、ハード整備が進み、災害の犠牲者数を年間千人規模から100人規模にまで減少させた」と評価する。
一方で、近年は、温暖化により風雨水害が激甚・広域化。また、平成7年の阪神大震災、23年の東日本大震災はそれ以前の防災の水準をはるかに超えた。
つまり、南海トラフや首都直下地震への対策を考えるとき、ハード整備だけでは限界があり、避難計画づくりなどソフト対策を抜きに考えることはできない。
片田は「近年の災害においては、日本社会の対応力が低下している」と指摘。その背景として「皮肉にも、戦後犠牲者を減少させてきたハード整備がある」と分析する。
ハード整備に頼り切るようになった日本人の意識は自然に無防備になっており、各地の災害で避難の遅れを招いている。こうした日本人の意識を自然との共生へ回帰させるためにもソフト対策は欠かせないのだ。
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ただ、「ソフト対策はハード整備と防災の両輪になってこそ有効だ。災害の激甚化に対応できなくなってきたハード整備は、せめて現在の水準を維持・強化するための技術革新に取り組むべきだろう」と強調。そして、この技術革新にあたるのが技研製作所の「インプラント工法だ」と指摘する。実際、釜石では堤防復旧に同工法を導入した。
12年の東海水害など破堤氾濫による洪水災害を調査してきた片田は「従来工法の堤防の構造的欠陥は以前から知られていた。東日本大震災の前にインプラント工法が普及していたら、犠牲者数は確実に減っていただろう」とみている。
=敬称略
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首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男氏が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。
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