【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(24)ケンブリッジ大に「圧入」研究依頼
技研製作所の無振動・無騒音の杭(くい)打ち機「サイレントパイラー」は、その革新性から、国内外で発表と同時に一定の需要が生まれた。しかし、新規メーカーの市場参入は容易ではなかった。
日本では、建設省(現国土交通省)は昭和50年の開発から11年間、同機を、建設工事の際の“お墨付き”といえる「工事積算基準」の対象としなかった。11年間で販売台数は400台超だったが、対象となってのちの3年間で千台に到達したことをみると、前例踏襲の“お役所仕事”は大きな壁となっていた。
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産業革命から200年近い歴史を有する欧州でも、新規参入の困難さを象徴する出来事があった。技研が昭和58年に欧州に参入し、初めて西独(当時)の見本市に出展。その後、フランスでサイレントパイラーのデモンストレーションを行ったときのことだ。
振動も騒音もなく杭を押し込む様子を見学していた施工技術者らしい男性が烈火のごとく怒り出し、「前日に穴を掘っておいて杭を落とし込んでいるだけだ。俺たちをだますために日本から来たのか」とまくしたてた。技研社長の北村精男(あきお)が通訳を介し「圧入原理」を解説しても、全く聞く耳をもたなかった。
欧州では、言葉の違いによる意思伝達の難しさがある上、「(杭として使用する)鉄の扱い方の文化が違った」(北村)。日本では、鉄資源が乏しいことから、建設の工事現場で使用する鉄材(杭)は引き抜いて繰り返し再利用できるように、高品質・高強度の資材として発達してきた。サイレントパイラーによる施工でも、そうした杭を使っていた。
しかし、植民地を抱え伝統的に鉄鉱石資源の豊かな欧州では、「鉄材も消耗品であるがゆえに、材質は良くなく、施工技術もあまり発達しなかった」。こうした施工に対する考え方や文化の違いがあるため、「圧入原理・工法」の合理性を主張しても理解が及ばなかったのだ。
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言語や文化を超え圧入工法を普及させるため、北村は、経験則や職人的な勘に頼る方法ではなく、科学的根拠を伴った学術的解明の必要性を感じ始めていた。
ちょうど英国ケンブリッジ大で、サイレントパイラーを使ったワインセラー増設工事が行われ、地元BBC放送が工事の様子を伝えて話題になった。北村は、それをきっかけに、同大学に「圧入の学術的な研究をしてもらえないか」と呼びかけた。
=敬称略
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首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。
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