【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(25)「国際圧入学会」を創設
技研製作所社長の北村精男(あきお)らが昭和50年に開発した無振動・無騒音の杭(くい)打ち機「サインレントパイラー」は、8年後には欧州で反響を呼んだ。
しかし、北村には「需要の『点』が『面』に広がらない」もどかしさがあった。新工法(圧入工法)を説明しようにも、言語などの壁を超えることができなかったからだ。そこで北村は、圧入原理・工法について、科学的根拠を伴った学術的解明を進めることを着想。その研究を、イギリスのケンブリッジ大学に呼びかけた。
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この提案に呼応したのが、同大教授(現・名誉教授)のマルコム・ボルトンだった。土質工学が専門で、2007(平成19)年に発足する「国際圧入学会(IPA)」で初代会長を務めることになるボルトンは、北村が研究を呼びかける以前に偶然、サイレントパイラーのビデオをみており、圧入工法に関心をもっていた。
ボルトンは1993(平成5)年、北村の招きで高知を訪れた。そのとき、北村に「創意と、自ら開発した工法の科学的解明への強い意思を感じ」、圧入原理について「地盤工学を考慮する必要性を説明した」と振り返っている。
その後毎年夏、ボルトンは学生とともに高知を訪れ、サイレントパイラーの実証実験による共同研究を技研側と重ねた。今では、学生の中から圧入研究の博士号取得者を輩出。また、硬質地盤への対応力向上や、高速の水流で地中の抵抗力を低減させる工法の開発などと、研究成果を還元していった。
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こうした研究の積み重ねを踏まえ、北村は平成17年、大きな一歩を踏み出す。高知工科大学長(当時)の岡村甫(はじめ)とボルトンに、国際学会創設への協力を呼びかけたのだ。
当初、ボルトンらは既存の学会に分科会を設け、研究を進めることを提案したが、北村は妥協しなかった。「圧入工学は機械工学、計測工学、施工工学が一体とならねば、社会の発展に寄与しない」と主張し、あくまで独立した学会を求めた。
いま、国際圧入学会は、自らの団体紹介についてこう記す。
「地盤、施工、機械、計測、環境、ITなど多岐にわたる学術・技術分野を融合した『圧入工学』を推進し、理論と実践を融合させることで、地盤と構造物の相互作用のメカニズム解明に取り組む国際学術組織」
それはまさに北村の思いだった。
=敬称略
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首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。
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