【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(26)地下駐車場は「稼ぐ耐震構造基礎」

 
稼ぐ耐震基礎構想のイメージ

 無振動・無騒音の杭(くい)打ち機「サイレントパイラー」を開発した技研製作所は平成23年の東日本大震災以降、杭を連続して打ち込み造った「壁」に、堤防・防波堤の機能をもたせる「インプラント工法」を主力とし、「国土防災企業」を標榜(ひょうぼう)している。

 現在、高知市などの沿岸部で堤防強化工事を進めているが、技研製作所社長、北村精男(あきお)は「堤防の上でマラソン大会をやればいい」と提案する。「莫大(ばくだい)な税金を使って堤防を整備しても、いつ起きるか分からない災害時にしか役立たないのでは非効率すぎる」からだ。

 高知県沿岸は太平洋の雄大な景観に恵まれているのに、日常は巨大な堤防の壁を見て暮らすというのは、いかに安全重視といえども「人の生活を豊かにするとはいえない。せめて、ふだんは風景を背景にランニングを楽しむような環境であるべきだ」とも語る。

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 こうした北村の考えの原点ともいえるのが、平成6年に技研製作所の敷地内の地下に建設した社員用の駐車場だった。その構造は、地中に円形状に杭を連続して打ち込み、中の土を取り除いて円筒形の空間として、その中に放射状の駐車場を配置したものだ。

 北村は昭和50年に、サイレントパイラーで杭打ち機の無公害化に成功したが、実は、42年に会社(前身の高知技研コンサルタント)を創業し独立する以前から「杭の連続壁で地下構造物を一発で造る」ことを着想していた。その構想が、サイレントパイラー開発後約20年で実現したのだ。

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 この駐車場のコンセプトは「地上に文化を、地下に機能を」。立体駐車場を地下に造ると考えれば、地上の省スペースにつながる。この駐車場の自転車版(駐輪場)は、迷惑駐輪が一掃できるとして、全国で設置が進みつつある。

 また、地中深く押し込んだ杭の連続壁は耐震性が高く、ビルの地下にこの方法で駐車場を造れば、ビル全体の耐震化につながる。さらに地下空間を災害時の避難用シェルターに利用することも可能だ。

 地下駐車場が完成した翌年の平成7年に起きた阪神大震災で高知は震度4、13年の芸予地震では震度5の揺れを経験したが、構造に全く影響はみられなかった。そして14年、北村は「稼ぐ耐震構造基礎」というキャッチコピーをつくり、建設専門誌で発表した。

=敬称略

 首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。