【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(27)海外で相次ぎ採用「レスキュー工法」
日本で河川堤防が整備され始めたのは戦国時代からといわれ、大阪・淀川でも豊臣秀吉が造成した堤が確認されている。災害のたびに既存の堤防の上に土が盛られ、堤防が発達してきた。いわゆる「土堤原則」といわれ、現代まで継承されている。
海岸の堤防に関しては、平成23年の東日本大震災で既存の堤防が破壊されたことにより、この原則が破られた。無振動・無騒音の杭(くい)打ち機「サイレントパイラー」を使って地中深く打ち込んだ杭による連続壁によって、堤防の復旧工事や既存の堤防の強化工事が行われている。
この工法は、技研製作所が開発した「インプラント工法」によるものであり、同社では、特に災害時の応急対応を「レスキュー工法」と名付け普及を目指しているが、採用されたのは海外が先だった。
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2002(平成14)年、米国フロリダ州オーランド市の住宅街で、直径45メートル、深さ18メートルにわたり大陥没が発生した。現場はアパートと隣接しており、陥没地点とアパートの間に、陥没を拡大させないように防護壁を設ける必要が生じた。このため、狭い工事現場に対応でき、振動・騒音を伴わないサイレントパイラーによる工事に白羽の矢がたったのだ。
04年には、メキシコ・ベラクルスで、約450年前に築造された観光名所「サン・フアン・デ・ウルア要塞」の基礎補強工事を受注した。この工事も、波による浸食を受けた基礎部分への振動の影響を避ける必要があり、港に隣接していることから工事作業船の大きさにも制限があった。
続く05年は、米南部を直撃したハリケーン「カトリーナ」により市域全域が浸水したニューオーリンズ市の水路の改修工事で、全体の8割にあたる工事現場でレスキュー工法が採用され、現在も工事は続いている。同市は低地で軟弱地盤に立地しているため、技研製作所米国法人がハリケーン発生以前から、水害を見越し、無振動・無騒音のサイレントパイラーによる工法をアピールしていた。
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こうした海外での経験が“逆輸入”され、東日本大震災後の日本で生かされている。技研製作所社長の北村精男(あきお)は「災害現場では迅速な対応が求められるため、多様な経験の蓄積が必要だ。温暖化など気候変動に伴い世界各地にサイレントパイラーによる工法が求められている」と語った。
=敬称略
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首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。
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