スルガ銀のシェアハウス融資は底なし沼か 社内調査の対象外の支店も“暴走”

 
ガヤルドの本社入り口(右奥)

 地方銀行のスルガ銀行(静岡県沼津市)のシェアハウス関連融資問題が底なし沼の様相を見せている。社内調査の対象外の支店も融資を実行していたことが発覚。銀行融資とは思えぬズサンな状況で、貸倒引当金はさらに積み増しを迫られる可能性がある。(東京商工リサーチ特別レポート)

◆川崎支店も融資を実行していた

 5月15日、スルガ銀行は社内調査の結果を公表し、スマートデイズ(5月15日破産)が展開していた「かぼちゃの馬車」を含むシェアハウス向け融資が2035億円(顧客数1258名)に上ることを明らかにした。社内調査では、同行の横浜東口支店、渋谷支店、二子玉川支店を対象とした。

 しかし、東京商工リサーチ(TSR)はミニアパートを対象としたサブリース案件で、前記の3支店以外でも融資を実行していた支店があることを示す書類を独自入手した。

 スルガ銀行は2018年3月期決算でシェアハウス関連融資等の貸倒引当金を積み増したが、社内調査の対象以外の案件でもさらに積み増しを迫られる可能性が出てきた。

 新たにサブリース案件への融資が確認されたのはガヤルドが展開するミニアパート向けで、融資額は土地取得と建物建築を合わせ約1億5000万円。複数のオーナーにスルガ銀行川崎支店が融資していた。

 ガヤルドは、2003年6月設立の注文住宅やマンション分譲会社で、「テラス」ブランドでミニアパートのサブリース事業も展開している。ミニアパートは木造で、1棟あたり10~20部屋のものが多い。オーナーは売主のガヤルドと土地売買契約を結ぶと同時に、A社を請負者とする建築工事の契約を結ぶケースが複数確認された。

◆ガヤルドを直撃取材すると…

 ガヤルドのサブリースを巡っては、土地代金と建築資金の一部を支払ったにもかかわらず建築工事がストップするケースが相次いでいる。ガヤルドのホームページに掲載されている代表番号に電話すると「本日は休業しております。またおかけ直しください」との自動ガイダンスが流れる状態だ。

 オーナーもガヤルドの代表者や社員と連絡が取れないと憤りを隠さない。

 5月21日午後、ガヤルド本社を訪問すると、入口は黒い布のようなもので覆い閉ざされていた。薄っすらと部屋の中から光が漏れているため、入口前で待機すると30歳前後のスーツ姿の男性が出てきた。男性は、「自分はガヤルドの社員ではなく、内装の現状回復で来ている。ガヤルドの人は中にはいない」と答えた。

 この男性を含めて、21日午後は少なくとも2名の出入りが確認できた。もう1名の男性もスーツ姿だったが、「ガヤルドの人間ではない」との受け答えに終始した。

 取材を進めると複数の関係筋から5月24日前後に本社を退去するらしいとの情報が得られた。ガヤルドは、オーナーとの連絡を絶ったまま、どこへ行くのか。

◆建築を請け負った業者は「債権調査」を送付

 一方、建築を請け負ったA社は、「B社」に商号を変更したのち、2017年6月にさらに「C社」に商号を変えている。

 C社は2018年5月、取引先に「債権調査に関するお願い」と題した書面を代表者名で送付した。TSRが入手した書面には「食品事業部で生じましたトラブルにより、資金繰りに苦慮するところとなった」とした上で、「(債権)調査終了までの間は(中略)お支払いのご猶予を頂きたく存じ上げます」と記載されている。

 文書の最後には、依頼を受けた法律事務所と弁護士名が記載されている。

 C社の代表は5月21日午前、TSRの取材に応じ、書面の送付を認めた上で「食品事業部は、2017年10月頃に開始したが債務が正しいかどうか疑問が生じた。取引先は大手から中小の食品メーカーだ」と語った。その上で、「ガヤルドのミニアパートの建築が止まったことと、食品事業部でのトラブルは別の話。ガヤルドから建築を請け負った案件があるが、ガヤルドからの入金がなく数千万円の焦付が発生した」と建築がストップした理由を述べた。

 21日午後、TSRの取材に応じたC社の代理人弁護士事務所の担当者は、「債権と債務の状況を調べ、会社再建の可能性を調べる。事後についての受任を前提としていると理解してもらって構わない」とコメントした。

◆書類改ざんの可能性も

 ガヤルドと連絡が取れず、建築会社も債務不履行に陥っている。オーナーはスルガ銀行からの借入金の返済原資にする予定だったガヤルドからのサブリース賃料が入らない。シェアハウスとミニアパートの違いはあるが、ともにサブリース案件向け融資で、スルガ銀行が貸し手である点はスマートデイズのシェアハウス「かぼちゃの馬車」と同じ構図だ。

 スルガ銀行が5月15日に米山明広社長名で公表したリリースには、「横浜東口支店では、営業担当者とチャネルが一体となりフリーローンを『融資の条件』とするセット販売が行われていた」と記載されている。

 ガヤルドのミニアパート向け融資を巡っては、オーナーの一人は「取得のための融資とフリーローンはセットであるとスルガ銀行川崎支店の担当者から言われ、年利7%程度のフリーローンも契約した」と語る。フリーローンの契約書には、ミニアパートの取得や運営とは全く関係のない使途や日付などが印字されており、オーナーが署名・押印する前に、すべての段取りが整っていたと感じさせる内容だ。

 15日に結果を公表した社内調査では、横浜東口支店、渋谷支店、二子多摩川支店を対象としていたが、これ以外の支店でもサブリース向け融資でフリーローンの「セット営業」が行われていた可能性をうかがわせる証言だ。

 さらに、TSRはスルガ銀行川崎支店で実行された融資で申し込み関連書類が改ざんされた可能性を示す書類も入手した。

 スマートデイズが手掛けていたシェアハウスでは、スルガ銀行に提出された融資申し込み関連書類の改ざんが明らかになったが、この点も類似している。

◆スルガ銀「第三者委員会は3支店以外も調査」

 スルガ銀行は5月15日付で第三者員会を設置した。社内調査で対象としていなかったミニアパート向けや、川崎支店を含む他の支店の融資にもフォーカスが必要になりそうだ。

 スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団の副団長を務める紀藤正樹弁護士(リンク総合法律事務所)はTSRの取材に、「スルガ銀行のサブリース物件向け融資はスマートデイズ以外にも確認されている。被害弁護団はスルガ・スマートデイズのみならず、これらが絡んでいれば、他のサブリース業者による被害も相談に応じている」と話す。

 5月21日午後、スルガ銀行の経営企画部の担当者はTSRの取材に、「5月15日に発表したシェアハウス案件の融資総額2035億円にミニアパート向け融資は入っていない。(社内調査で)横浜東口支店や渋谷支店、二子玉川支店の3支店にスコープしたのは、スマートデイズ案件の取り扱いが多かったため。第三者委員会では、シェアハウス向け以外の融資や3支店以外の支店も調査すると聞いている」と述べた。

 また、2018年3月期に積み増した貸倒引当金について、「シェアハウス向け融資を積み増した」とした上で、ミニアパート向け融資などでさらに積み増す可能性については「調査結果をみないと分からないとしかコメント出来ない」と語るにとどめた。

◆銀行融資とは思えないズサンな状況

 TSRが独自に入手した資料では、銀行融資にかかわる資料とはおよそ思えないズサンな状況が透けて見える。オーナーに話を聞くと、不動産担保の借入金利は年利3.5-4.5%で、フリーローンは年利7%程度。フリーローンを借りたオーナーと借りていないオーナーでは、不動産担保融資の利率が異なるケースもある。

 こうした金利差は銀行のマニュアルに沿ったものか、支店や一部の担当者が勝手に決めたのか。なんらかの「取り決め」があれば、フリーローンを最初からセットとして組み込んでいた可能性も浮上する。

 5月22日、被害弁護団はスルガ銀行横浜東口支店の行員14名や販売・仲介会社の担当者19名(退職・異動など含む)を有印私文書変造・行使の疑いで、警視庁に告発状を提出した。

 提出後の会見で、被害弁護団の河合弘之弁護士(さくら共同法律事務所)は、「書類の偽造(変造)があったから、いい加減な融資がされ、融資されたから雨後の竹の子のようにシェアハウスが出来て供給過剰になり、賃料が下がり、サブリース賃料が払えなくなった。サブリース賃料が入らないからローンが払えなくったという因果関係がある」と語った。

 底なし沼の様相をみせるスルガ銀行のシェアハウス関連の融資問題。遅きに失した感はあるが、新たに設置された第三者委員会でどこまで真相を解明できるか注目される。

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