【高論卓説】後絶たぬ高齢ドライバー事故 万能でない認知症検査 運転やめる勇気も
昨年3月から改正道路交通法が施行され、75歳以上のドライバーの認知機能検査が強化された。警察庁が発表した施行後1年間のまとめによると、210万5477人が検査を受け、5万7099人が「認知症の恐れがある」と判定され、最終的に免許取り消し、または停止処分を受けたのは1892人だった。最初の検査で問題なしと判定されたのが149万4568人だから、一発合格とはいえない人の比率は3割程度になる。高齢ドライバーは540万人、検査を受けた高齢ドライバーはまだ半数に満たない。
一方、道交法の課題が明らかになるような事故も起こっている。5月28日に神奈川県茅ケ崎市で90歳の女性の運転する乗用車が歩行者4人をはね、うち女性1人が死亡した事故もその一つである。この90歳の女性は2018年3月に免許を更新しており、更新のために17年12月に認知症検査を受けたが問題なかった。家族からは免許返納か、更新停止を勧められていたが、膝が悪く、出かけるには車が便利だと運転を続けていたと報道されている。
高齢ドライバーの場合の更新手続きは、「健康診断」のようなものと考えたほうがよさそうだ。つまり、更新時点までの運転能力に関しては許容範囲と認定するが、それ以降は能力低下の懸念があり自己責任で判断すべしというものだ。
自動運転が実現されれば、高齢ドライバーもハンドルを握る必要がなくなるだろうが、全国の各地域で高齢者などが自由に移動できる社会が実現されるのは、自動運転の「SAEレベル4」の遠隔型自動運転システムサービスの普及を待たなければならない。早くても25年以降になりそうだ。
経済産業省は高齢ドライバーの交通事故防止対策の一環として、17年4月に自動ブレーキやペダル踏み間違い時の加速抑制装置などを搭載した車に「サポカーS」の愛称をつけ、普及啓発に取り組んでいる。歩行者に対してぶつかりそうになったときにブレーキが作動するのはより上級の「サポカーS・ワイド」である。
国土交通省も高齢者の交通事故対策として、18年4月から「自動ブレーキ認定制度」を開始した。衝突時の被害を軽減できる自動ブレーキに求められる性能を評価、認定する制度である。今回の認定制度では人に対するブレーキ性能は対象になっていない。茅ケ崎の事故を見ると、歩行者を対象にした自動ブレーキの認定制度も必要だろう。
こういった自動ブレーキ関係の機能は後付けできないので、車両を買い替える必要がある。機能自体も万能というわけではない。免許更新がスムーズにできてしまえば、運転能力に対する一種の「お墨付き」をもらったように考えてしまうこともありそうだ。
後付けの機能では、高齢ドライバーが自己の運転技能を客観的に判断するのにドライブレコーダーを活用するのが良いだろう。ドライブレコーダーには、前方車間距離、車線維持、急ブレーキ、急ハンドルなどの警報や運転を評価する機能を備えたものもある。記録動画を本人が見れば、現在の運転技能を客観評価することもできる。
高齢ドライバーは毎年増えていく。事故を少しでも減らすために社会全体でサポートするのはもちろんだが、高齢ドライバー自身も技能の衰えを感じたら、運転をやめる勇気を持つことが必要だろう。
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【プロフィル】森山博之
もりやま・ひろゆき 旭リサーチセンター、遼寧中旭智業研究員。早大卒後、旭化成工業(現旭化成)入社。広報室、北京事務所長などを経て2014年より現職。60歳。大阪府出身。
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