赤字で揺れた「阿波おどり」騒動余波 「観光客集まるか」地元の不安

 
今年の阿波おどりのPRポスター。例年通り開催されることは決まったが…(徳島市提供)

 4億円超の赤字解消をめぐって徳島市と公益社団法人「市観光協会」が対立し、開催が危惧された「阿波おどり」(8月12~15日)だが、市が主体となって作った新たな主催者団体「阿波おどり実行委員会」によって例年通り開催することが決まった。一方で昨年までの主催者だった「市観光協会」は徳島地裁の破産手続き開始を不服とし、高松高裁に即時抗告したが棄却され、破産することになった。市民や踊り手グループも巻き込んだ騒動は沈静化したが、全国で話題となり、「今年は中止か分裂開催」などといった風評被害の影響を懸念する声もあがっている。開催まで約2カ月、例年通りの人出は見込めるか。

 徳島新聞社は3億円の寄付

 観光協会と徳島新聞社が主催者となって運営してきた阿波おどり事業の累積赤字は平成28年度までに4億2400万円にまで膨らんだ。祭りの会計業務を担当していた観光協会は金融機関から借り入れ、年度末にいったん清算し、翌年度にまた借り入れる形を取り、その度、市が損失を補償していた。

 借入金は観光協会が返済できなければ市が支払う契約になっていた。このため、28年4月に就任した遠藤彰良市長は多額の累積赤字を問題視。観光協会が安易に赤字を増やさないようにする目的で、29年度の損失補償の限度額を、それまでの6億円から借入額と同じ額に減額した。

 さらに今年になって遠藤市長は観光協会への補助金打ち切りを決め、30年度は損失補償しないと発表。金融機関から債権を譲り受け、今年3月1日付で徳島地裁に観光協会の破産手続きを申し立てた。

 観光協会の収益の柱は「阿波おどり会館」と「眉山ロープウエイ」の指定管理業務で、昨年度までは市から年間約8300万円の指定管理料を受け取っていたが、今年4月からは外され、新たな指定管理者には徳島新聞社とその関連会社で構成する共同事業体が選ばれた。

 収益の柱がなくなったことなども踏まえ、地裁は3月29日、観光協会の破産手続き開始を決定。遠藤市長は「阿波おどりは市が責任を持って取り組む」として新たな実行委員会を立ち上げることにした。

 一方、観光協会とともに主催者だった徳島新聞社は4月12日、「主催者の一員として一定の責任がある」として、阿波おどりのための振興基金の創設を提案し、市に3億円の寄付を申し出た。

 累積赤字に関して徳島新聞社は「道義的な責任はあるが法的な責任はない」と主張。寄付の3億円は、「阿波おどりを1回開催するのに2億8千万円から約3億円の運営費が必要で、それを基に算出した」とし、「安定的な運営のための基金の原資として寄付する」と説明した。

 観光協会へ協力金3億3千万円

 観光協会の金融機関の借入金は4億2400万円だが、金融機関にある預金を差し引くと債務は約3億8千万円になる。

 協会によると、市による徳島地裁への破産手続き申し立て以降、その報道を知り、県内外の個人や企業から約3億3千万円の協力金が寄せられたという。協会の現預金約1億5千万円と協力金を合わせると計約4億8千万円。この金から債務を一括返済しても手元に7千万~8千万円が残り、協会は当面の運営はできると判断。地裁決定を不服として4月16日に高松高裁に即日抗告した。

 協会側は「債権の全額を返せば、徳島市が市民の税金を投入しなくて済む」と指摘。高松高裁で開始決定が取り消しになった場合を想定し、阿波おどりの今年の実施計画も作っていた。

 しかし、高松高裁は5月23日付で地裁の決定を支持し、即時抗告を棄却した。

 高裁は棄却について「地裁の決定時には債務超過の状況にあった」とした上で、協力金約3億3千万円について「贈与ではなく貸付金にすぎず、破産債権者への弁済に充てたとしても債権者を異にするだけで、破産債権が存続することに何ら変わりはない。市から補助金などを打ち切られ、代わりの事業収益を得られるだけの見通しがない」と指摘した。

 市は桟敷席を2億円で購入

 高裁の決定が長引くなかで、注目されたのが阿波おどりの収益の柱となる演舞場の桟敷席(観覧席)だ。

 これまで観光協会が保有していたが、地裁の決定により破産管財人が管理していた。高裁決定が出るまで協会は「抗告が認められれば桟敷席は協会の所有に戻り、独自開催も可能」と主張していた。一方で市は破産管財人が桟敷席を換価する前に取得しようと管財人と協議。5月21日、市は管財人と2億1600万円(税込み)で購入することで合意に至ったと発表した。

 桟敷席の収容人数は4カ所の有料演舞場が計約1万3900人、2カ所の無料演舞場が計約2千人。管財人が桟敷席のチケット売り上げの見込みなどから売買価格を決定したが、桟敷席を新たに作ると10億円以上はかかるという。

 購入について遠藤市長は「6月から旅行業者向けのチケット販売が始まり、業者の不安を払拭するため、一日も早く取得する必要があった」と説明。その上で、桟敷を購入するため、一般会計補正予算として専決処分し、6月議会で承認を求める。購入費の財源としては、徳島新聞社が市に寄付を申し出た振興基金のための原資となる3億円から充てるという。

 当初、徳島新聞社は3億円は赤字解消には使用せず、あくまでも基金の原資としていたが、「今夏の開催が第一義との判断から寄付金の使用を承諾した」としている。

 観光協会は最高裁への抗告を断念

 観光協会の債務は約3億8千万円だが、市が桟敷席を2億1600万円(税込み)で購入することから債務は約1億8千万円に減額。さらに協会の現預金約1億5千万円を引くと実質約3千万円になる。

 観光協会は当初、即時抗告が棄却された場合は最高裁に特別抗告する方針を示していた。しかし「腑に落ちない点は多々ある。市からの一方的な対応、約3千万円の負債での破産手続きに対しての特別抗告だった」としながらも、「阿波おどりを決して邪魔するものではない。これ以上の混乱を招かないようにし、阿波おどりが無事、開催されることを望む」として特別抗告を断念した。

 一般向けチケット販売は7月1日から

 徳島市、徳島新聞社、県商工会議所連合会などでつくる新たな主催者団体「阿波おどり実行委員会」は5月30日、有料演舞場の桟敷席チケットを例年通り販売すること決めた。

 それによると、前売り料金は南内町演舞場の特別席が5千円、その他各演舞場のS席が2千円、A席が1800円、B席が1600円、C席が800円。

 チケットは旅行業者向けが6月1日、南内町演舞場の特別席が6月15日、一般客向けが7月1日から販売。全国のコンビニエンスストアやインターネットで購入できる。

 市によると、一般客向けのチケットは旅行業者向けチケットの売れ行き次第だが、少なくとも1割以上は確保する予定。また、例年、4カ所の有料演舞場の中でも市役所前演舞場の売れ行きが悪く、販売率のアップを目指している。

 このほか今年は市中心部の歓楽街・秋田町で町内会や飲食店経営者らが運営し、無料で阿波おどりが観覧できる「秋田町おどりロード」が新設される。

 観光客が例年通りきてくれるか

 ただ今年は騒動の“余波”を懸念する声もある。徳島市が破産手続きを申し立てて以降、新聞やテレビ、ネットで市と観光協会の対立が大きく報じられた。市が主体となってつくった「阿波おどり実行委員会」と観光協会による分裂開催に加え、阿波おどりそのものが「中止になるのでは」とも取り沙汰され、旅行業者からは「桟敷席が使用できなければ、ツアーなど客への販売ができない」との声があがり、混乱を極めた。

 また、踊り手グループのなかでも有名連の各演舞場の出演を割り振る調整役を慣れない市が担当することになり、期間中の午後10時頃から行う祭りのフィナーレ「総踊り」が見られるのかと懸念する声も。市観光課が中心になって開催準備を進めるが、関係者は「観光客が例年通りきてくれるか」と心配している。