【松本真由美の環境・エネルギーDiary】「非化石証書」 企業への訴求力は?

 

 日本卸電力取引所(JEPX)が開設した非化石価値取引市場の初入札が5月18日に行われました。この市場では、再生可能エネルギー(再生エネ)など非化石エネルギー源由来の電力の非化石価値(環境価値)を証書化し、電気の現物市場と分離して取引しています。この新市場の目的と、潜在的なユーザーとなる企業への訴求力について探りました。

 非化石電源増強が目的

 初入札の対象は、固定価格買取制度(FIT)に基づいて買い取られた再生エネ電力の非化石価値で、昨年4~12月の発電量(9カ月間で計500億キロワット時超)を入札にかけました。これは国内の年間電力消費量の約6%に相当します。

 入札の最低価格は1.3円/キロワット時と定められ、最も高い入札価格は4.0円/キロワット時、最も安い価格は1.30円/キロワット時で、小売電気事業者26社によって落札されました。販売された非化石証書(欽定量)は511万5738キロワット時で、欽定率は0.01%、欽定収入は約670万円と低調な結果となりました。

 改正エネルギー供給構造高度化法(16年4月1日施行)は、小売電気事業者に対し、調達電力に占める「非化石電源」の割合を30年度までに44%以上にすることを課しています。非化石価値取引市場は、この目標達成を後押しする目的で創設されました。

 地球温暖化対策推進法の温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度では、エネルギー使用量が多い企業に、国への排出量の報告を義務付けています。今回の初入札で非化石証書を小売電気事業者から購入できた企業は、17年度のCO2排出係数の低減に利用することができます。

 非化石証書の売り上げは、FIT賦課金の原資に充てられます。国民が電気料金の中で負担している賦課金は増大傾向にあり、その負担を少しでも低減する目的もあります。次回入札は7月末~8月ごろに行われ、それ以降、3カ月ごとに実施される見通しです。来年度は、FITの対象ではない大型水力発電や地熱発電、原子力発電の非化石証書も販売予定です。

 CDP、RE100への活用

 国内で企業が再生エネの環境価値を購入する仕組みとして、「グリーン電力証書」と「J-クレジット(再生エネ由来)」の2つがあります。グリーン電力証書とJ-クレジットは原則、自家消費した再生エネ電力(非FIT電気)が対象で、再生エネの種類や発電所を指定できます。

 しかし、グリーン電力証書とJ-クレジットは、発行量が限られ、他国と比べて価格が高いことが課題とされます。非化石証書は、グリーン電力証書やJ-クレジットとは桁違いの供給量になり、入札で活発に取引されることが期待されました。

 初入札が低調に終わったのは、認知度の低さもありますが、グリーン電力証書やJ-クレジットの取引価格より高く、応札を見送った小売電気事業者が多かったためとみられています。

 世界の機関投資家の間で近年、環境・社会・ガバナンスを重視して投資先を選ぶESG投資が拡大しており、企業側に環境情報開示を進める機運が高まっています。しかし日本は、ゼロエミッション電源の環境価値の調達環境が世界でも遅れているとされます。非化石証書が、環境意識の高い企業に訴求する可能性はあるでしょうか。国際NGOであるCDPジャパンの高瀬香絵シニアマネージャーにうかがいました。

 CDPは、世界の企業約5000社に気候変動質問書を送付し、企業の環境情報公開や環境活動をランク付けして評価しており、世界の投資家が投資判断に活用しています。

 「非化石証書は、国際的な温室効果ガス(GHG)の算定・報告基準である『GHGプロコル』の要件を満たしています。非化石証書を購入することによって、企業は温暖化対策が進めやすくなる可能性もあります。CDPの気候変動質問書でも、非化石証書を付けた電力は、CO2排出ゼロ電源として計上可能です」

 --事業で使う電力を100%再生エネにすることを目指す企業の国際的イニシアチブRE100でも非化石証書は活用できますか?

 「非化石証書はGHGプロトコルに準じていますので、RE100でも企業の判断によって活用可能です。日本企業が非化石証書を利用し、“実質再生エネ電気”にしても構いません。ただ、非化石証書には、米国のREC(再生可能エネルギー証書)や欧州のGO(発電源証明)のように再生エネ電力の発電から利用までの流れを明確にするトラッキングシステムが整備されていません。再生エネの種類や立地、新しさなど属性を重視するRE100企業も少なくないので、後々そこを問われる可能性はあります」

 非化石証書の可能性は?

 欧米では、一定規模以上の再生エネ発電設備について、電源の種類、発電期間、発電場所や容量、補助金や支援の程度、発行日、発行国、IDナンバーなどの属性証明をITシステムで管理しています。

 「欧米のトラッキングシステムは、再生エネ電力の属性の権利主張を担保する手段として活用されています。日本でも、再生エネ大量導入時代を見据え、非化石証書取引とは別に、電源の属性トラッキングシステムの整備を進めるべきです。オランダに本部がある国際NGO『I-REC』は、米国のRECや欧州のGOのように公式の証書管理システムがない国々を対象に、トラッキングシステムの導入を促進しています。I-RECが開発した基準や運用ルール、システムを政府監督のもと利用することもできます」

 高瀬氏にお話をうかがい、非化石証書は、30年度までの非化石電源44%達成とFIT賦課金の低減という目的を達成するために重要なツールだと改めて思いました。一方で、非化石証書は、他の環境クレジットと比べてやや見劣りするのは否めません。再生エネ電力のトラッキングシステム導入は国に前向きに検討してもらいたいです。

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【プロフィル】松本真由美

 まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムのコーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。