映画館で、映画祭で…シネマに広がるVRの世界 「体験エンタメ」定着するか
VR(バーチャルリアリティー、仮想現実)映画の市場が広がろうとしている。PCメーカーのVAIO(長野県安曇野市)、映画会社大手の東映(東京都中央区)、映像制作のクラフター(東京都港区)では、映画館のシートに座ってVRヘッドセットを着用し、VR映画を鑑賞する「映画館でVR!」の試みを7月2日からスタート。7月13日開幕のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018では、今回からVR映画上映のプログラムが設けられた。6月に日本で開かれていたショートショートフィルムフェスティバル&アジア2018でもVR360°プログラムを上映。こうした試みを経て、VRを家だけでなく、映画館や映画祭のような場で体験するエンターテインメントが定着するかに映像業界の関心が向いている。
家などでは味わえないVR体験
「自宅やスマホからでも気軽に映像を楽しめる状況で、新たな映画の形としてVR映画をお届けし、映画館に訪れて頂くバリューを高めていきたい」。東京都新宿区の新宿バルト9で6月26日に開かれた「映画館でVR!」の発表会見で、東映取締役企画調整部長の村松秀信氏はこう話して、VR上映が映画館の集客増につながる可能性に期待した。映画館ではこれまでも、シートが動き光や風などの演出も加わった4Dや、ハイクオリティの映像や音響を体験できるIMAXなどを導入し、映画館ならではの鑑賞体験ができるようにして来た。VR上映も映画館ならではの鑑賞プログラムとして観客にアピールしたい考えだ。
VRについては、ゲーム機のプレイステーション4に接続して楽しむプレイステーションVRや、スマートフォンを挿入して楽しむGear VRが浸透し、対応タイトルも続々と登場。2018年に入ってからは、フェイスブックのOculus Go(オキュラス・ゴー)やレノボのMirage Solo(ミラージュソロ)といった、PCなどとの接続を必要としない、それ1台でVRを体験できるスタンドアローン型VRヘッドセットも登場して、個人での利用が伸びようとしている。映画興行には逆風とも言えそうだが、VAIO執行役員副社長の赤羽良介氏は、「劇場で多人数が同時にVR体験をする魅力」を指摘。映画館の迫力ある音響を生かし、VR映像とともに提供することで、家などでは味わえないVR体験が可能になると訴える。
「映画館でVR!」では、観客はシートに座った状態でVRヘッドセットを装着するが、ヘッドフォンなどは着用せず、劇場内のスピーカーを使って流されるサウンドを耳から直接聞く。「周囲の気配が聞こえてくる。ホラーなら隣の人の悲鳴、コメディは笑いが聞こえる。音楽ライブVRはみんなで盛り上がれる」とクラフターの古田彰一社長。6月26日の発表会見では、瀬戸内地方を拠点に活動するアイドルユニット、STU48のメンバーがクラフター制作の「夏をやりなおす」というホラーテイストのVR作品を体験した。メンバーの今村美月さんは、「後ろから音が聞こえて自分がその世界にいるよう。誰かが悲鳴をあげたら臨場感が増してさらに怖くなった」と、スピーカーから音を聞く「映画館でVR!」ならではの楽しさを話してくれた。
7月2日からの上映では、この「夏をやりなおす」の他に、アニメーションがブームとなった「おそ松さん」をVR化した「おそ松さんVR」や、テレビや映画で人気の「新世紀エヴァンゲリオン」を3DCGで制作し、自分が巨大なロボットを真下から見上げたり、遠くから襲ってくる姿に驚いたりできるアニメーション「evangelion:Another Impact (VR)」を提供。VAIO、東映、クラフターではこれ以後も、ホラー映画や「仮面ライダー」シリーズなど東映が持つ人気IP(知的財産)を題材にしたVRコンテンツなどを提供し、映画館における新たな集客プログラムになり得るかを検証していく。
ぐるりと取り囲む360°の視界で作品展開
VR映画については、6月24日まで東京都内で開催されていたショートショートフィルムフェスティバル&アジア2018に初めてVR上映プログラムが設定され、世界中から集められたVR作品が上映された。自分をぐるりと取り囲む360°の視界で繰り広げられていく、人気ポップスバンドの成功から活動停止までを追いかけた作品や、死んだ老人の遺灰が入れられた壺の視点から、家族が繰り広げる騒動を見ていく作品などが登場。六本木ヒルズに設けられた上映会場では、レノボのVRヘッドセット、Mirage Soloを装着した観客が、回るイスに座って好きな方向を見ながら映像を楽しんでいた。
日本からも、田口清隆監督による「ウルトラマンゼロVR 大都会の戦慄 エレキング対ゼロ」などが上映されたVR360°プログラム。映画という映像エンターテインメントにVRが加わってくる可能性を想像させた。この「ウルトラマンゼロVR」は、デジタルシネマにフォーカスして上映し、次代を担う若手の映像クリエイターの登竜門にもなっている映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018で7月14日と15日に実施されるVR上映の1作品としても取り上げられた。
上映中の映画「カメラを止めるな!」が連日満席となっている上田慎一郎監督が、小沢かなのマンガ「ブルーサーマル-青凪大学体育会航空部-」を原作に撮ったVR作品「ブルーサーマルVR-はじまりの空-」も併映。7月14日には田口監督と上田監督、そして「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」で世界的に知られる押井守監督がVR映画について語るセミナーも開催。大物監督も関心を持ち始めたVR映画は、映像体験を変え、映画興行にとっても新しい集客プログラムとなっていくか。映画ファンや映画業界の関心が集まっている。
関連記事