【寄稿】脱炭素をめざす「気候変動イニシアティブ」発足

 

 ■日本の気候変動対策を活性化、グローバルに活動展開

 パリ協定に代表される近年の気候変動対策では、企業、自治体、NGOなど非国家アクターの役割が国際的に注目されている。

 そもそも気候変動対策が実施される現場は、企業であったり、自治体であったり、一般家庭であったりする。近年は、対策を実践する現場としての役割だけでなく、国際社会や国家などが積極的な政策・対策を行うよう後押しする存在としても注目されている。

 その典型例の1つが、米国での「We Are Still In(WASI)」運動である。WASIは、米国の州、都市、企業、教育機関などからなる連合体で、その名の通り、米国のトランプ政権がパリ協定離脱の意向を表明した直後に、「それでも(パリ協定に)居続ける」との意志を示し、世界的な脱炭素化の潮流が変わらないことを国際社会に再認識させることに一役買った。

 日本でも非国家アクターの力を結集

 「企業、自治体、市民社会といった分野を越えた非国家アクターの力を結集するような連帯を、日本でも作るべきではないか」という問題意識を持つ団体・個人が集い、今年春ごろからイニシアティブ設立の準備を進めてきた。そして7月6日には、企業、自治体、その他団体を含む105団体(7月5日時点)の参加を得て、「気候変動イニシアティブ(JCI)」が発足した。

 事務局は、自然エネルギー財団、CDPジャパン、WWFジャパンが担う。協力団体には、準備段階から参加していた日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)、フロンティア・ネットワーク(TFN)、エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議のほか、持続可能な社会を目指す地方自治体の国際組織の日本事務所であるイクレイ日本が名前を連ねている。呼びかけ人の代表として、国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹二郎氏がいる。運営体制などの詳細は、今夏に決定していく予定である。

 脱炭素化をめざす世界の最前線に

 参加団体は、JCIの宣言文に賛同している。宣言文では、気候変動対策について「今日、日本は主導的な役割を果たしているとは言い難い状況」にあることを率直に認めたうえで、自らの活動について「2℃未満目標の実現に向けた世界のトップランナーとなるよう、取り組みを強めていきます」と宣言する内容となっている。

 宣言文はさらに「日本の非国家アクターの活動は、必ずや気候変動対策における日本の国際社会でのコミットメントも高めていくでしょう」としており、日本が国際社会の中で気候変動対策に関するコミットメント(約束・目標)を強化していくことに期待を寄せている。

 今後のステップ

 「脱炭素」に向けた日本の非国家アクターの強い意志を結集し、1つの集合体として目に見える形で「脱炭素」に向けた動きを示していくことになるが、JCIはそうした存在意義をさらにステップアップさせていく。

 そのためにまずは今後、さらなる参加を企業、自治体、市民社会、消費者団体、その他の団体に求めていく予定である。7月5日の設立時点で105団体の参加を得られたことは、こうした活動が珍しい日本ではまずまずのスタートといえる。しかし、米国のWASIは、設立当初から参加数が1000を超えており、現時点ですでに2800を超えている。WASIのケースは特殊な政治状況も絡むため、単純比較はできないが、日本でもより広範な参加を得られるポテンシャルは十分にあると考えている。

 また、脱炭素社会実現に向けたムーブメントを国内に創出するため、10月12日に都内で「日本気候変動アクションサミット」を開催することを決めている。このイベントに、日本の気候変動対策を深掘りさせるための“日本版タラノア対話”のような性格を持たせることができれば、国連気候変動プロセスでの議論にも貢献できる。

 もちろん、参加団体によるさらなる気候変動対策推進も重要である。現状でも、“企業版2℃目標”と呼ばれるSBT(Science Based Targets)や再生可能エネルギー100%を目指すRE100などの国際イニシアティブに参加している企業が多数、JCIに参加している。そうした企業の取り組みを紹介し、メンバー間で交流を深めることが、気候変動対策強化の一助となると考え、そうした仕組みづくりを検討している。

 さらに大事なのが、JCIのこうした取り組みが国内にとどまることなく、国際社会に向けて発信され、国際社会からの期待や刺激を受けてさらに組織として発展していくことである。そのため、今年9月に米カリフォルニア州の主催で開催される「グローバル クライメート アクション サミット(GCAS)」や、12月にポーランドで開催されるCOP24(国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議)に参加し、JCIの取り組みを発信したり、他国の非国家アクターと交流したりしながら、活動の幅をさらに広げていく。

 実は、こうした非国家アクターの力を結集する動きは、国際的な潮流になりつつある。WWF、We Mean Business(WMB)、C40、The Climate Group、CDP、Avina Foundation、CAN Internationalが連携し、「気候行動のための連盟(ACA)」という活動を開始しており、複数の国で同様の「非国家アクターの連合体」結成を呼び掛けている。JCIはこのACAの動きとも連携していく予定である。

 JCIでは気候変動対策について日本政府とも対話をしていく。

 こうした非国家アクターによる取り組みを目に見える形で示し、かつ拡大させていくことで、決して活況とは言えない日本の気候変動対策を活性化していければと考えている。(WWFジャパン自然保護室 気候変動・エネルギーグループ長 山岸尚之)

                   ◇

【プロフィル】山岸尚之

 2003年に米ボストン大大学院修士号を取得後、WWFジャパンで温暖化とエネルギー政策提言に従事。