校長の「困惑」がにじんだ謝罪 小学校熱中症死亡事故…「認識が甘かった」は通用しない
【ニッポンの謝罪道】 7月17日、愛知県豊田市梅坪町の市立梅坪小学校で、1年生の男子児童(6)の意識がなくなりその後救急搬送されたが熱中症により死亡した。1年生110人は約1キロ離れた公園への「校外学習」に出かけ、虫取りや遊具を使った遊びをしたという。男児は「疲れた」などと公園に向かう途中に話していた。同小の籔下隆校長は「今回、こういう高温の中で行かせてしまったことについては、結果的に大事な大事な子供の命がなくなってしまうということなので、判断が甘かったことを痛感しています」と謝罪した。
◆現代っ子をひ弱扱いしがちな中高年
この会見を見た時、藪下校長の申し訳なさそうな、だが困惑したような顔が印象に残った。真摯に謝っているものの「まさか夏の日に外で遊ぶだけで死ぬとは……。参った……」という思いもあるように見えた。
また、19日に放送された『とくダネ!』(フジテレビ系)で、キャスターの小倉智昭氏は「僕らの時代だって真夏、水飲めない時代ですよ。走って気分が悪くなって倒れるとバケツで水かけられて。めちゃくちゃな時代を生きてきたから熱中症とか信じられない」と語った。
藪下氏や小倉氏のような50代~70代の人は「運動中は水を飲むな」「学校にエアコンがあるなんて贅沢だ」という常識が蔓延した少年時代を過ごしてきた。
中高年世代はとかく現在の子供達をひ弱扱いする。食物アレルギーにしても熱中症にしても、「オレらの時代、そんなヤツはいなかった」と言い、小倉氏が言ったように「信じられない」という反応をする。小倉氏も、彼に対して首をかしげたコメンテーターの突っ込みに「すみません」と謝っていたし、もちろん(最高気温が明らかに上がっていることなど)時代が変わっていることは理解しつつも、「なんでその程度のことで……」と内心思ってしまうのだ。
◆異常なことが多すぎた私自身の子供時代
現在44歳の私も彼らの系譜に連なるが、今思い返しても小中学校時代は今から考えれば異常なことが多過ぎた。ザッと挙げてみる。
・全校集会ではなぜ、背の順に並ばせたのか。
・全校集会ではなぜ、「体育座り」を強要したのか。別にあぐらでもいいではないか。
・なぜ、職員室にしかエアコンがなかったのか。
・なぜ、冬であろうとも、雪が降ろうとも男子は半ズボンしか着用できなかったのか。
・なぜ、学校にお金を持っていくことが禁止されていたのか。
・なぜ、午前の自由時間は全員が校庭に出なくてはいけなかったのか。
・なぜ、「風邪ぐらいだったら学校に来なさい」と指導されていたのか。
・なぜ、出席率の高さをいちいちクラスごとに競っていたのか。
大人になったらこうしたことは異常だと思うものの、当時はこれが私の周囲では常識だった。今回の死亡事故を受け、全国の小中学校では炎天下の行事を中止したり、集会をエアコンの効いた音楽室でやったり、午後の授業をやめる流れができた。夏休み期間中のプールの授業を中止する学校も出た。
◆悲惨な事故でようやく動き出す物事
大変残念なことだが、人が死ぬような悲惨な事故が発生することで、物事というものはようやく動き出すのが現実だ。上記の「冬でも半ズボン」ももしも今も見られる現象だとしたら、凍傷のような深刻なけがが起きて、ようやくその学校では長ズボンが解禁になるのではあるまいか。
結局事故でも発生しない限り理不尽かつ無意味なものがなかなか変わらないのがこの世の常である。2015年、電通社員だった女性が過労死(自殺)したが、彼女の死を受けて同社は22時以降の残業が禁止となり、広告業界の他社も同様に慢性的な長時間残業を是正する流れが生まれた。
今回児童が亡くなった事故により、「暑い時は外での活動を控える」という流れができた。9月に入っても猛暑日が続いた場合、運動会の練習を取りやめる例が相次ぐだろう。 そういえば運動会の組体操の「花」といえば10段にも達する巨大ピラミッドだが、事故が相次いだことからやめる流れとなった。
こうしたことを考えると籔下校長の今回の困惑した謝罪には、「よりによって自分が校長の時になんで……。というか、なぜ我が校でこんなことが起きた……」といった感情もあるのでは、と勘繰ってしまう。それは「判断が甘かったことを痛感しています」という言葉に集約されていると思うからだ。
◆すべての組織は事故が発生する要因を洗い出せ
「想定外だった」も同じだが、人の命がかかわることについては「判断が甘かった」は通用しないのだ。
東京都調布市の小学校で2012年12月、給食で乳製品アレルギーのある女児が粉チーズの入ったチヂミを食べて死亡する事故があったが、この時は「担任の確認ミス」と学校側は謝罪をした。
女児はチーズの入っていないチヂミをまずは与えられたが、おかわりしたチヂミにチーズが入っていたのだ。おかわりをしたことを受け、ネットでは「意地汚い子だ」などと心ない批判がされたが、彼女は「完食記録」に貢献しようと不人気だったチヂミのおかわりを買って出たのだ。誰も手を挙げないものだからクラスの役に立とうと考えたのだという。
これも「完食記録」などという、どうでもいい目標を作ったものだから事故に繋がってしまった。
もう謝罪をする日が来ないようにするためにも、今後学校を含めたすべての組織は事故が発生する要因をさらに洗い出す必要が出てくるだろう。「認識が甘かった」式の謝罪で免罪符を与えられるのであれば、それこそ遺族にとってはたまったもんじゃない。
【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。
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【ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は原則第4水曜日。
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