【スポーツi.】夏のスポーツ大会、競技中に生じた事故責任は誰にあるのか マラソンで考える

 
リオデジャネイロ五輪の女子マラソンで力走する日本の田中智美選手(左)=2016年8月

 この夏は猛烈な暑さが続いている。2020年の東京五輪への影響を懸念した国際オリンピック委員会(IOC)は、選手や観客、大会運営に当たる職員らを守るための具体的な暑さ対策を計画していると発表し、「第一段階は既に競技日程に反映されている」(広報)とコメントしている。(GBL研究所理事・宮田正樹)

 夏のスポーツ大会で参加者が熱中症で倒れたり、死者が出たりした場合、その主催者は責任を問われるか。五輪でも懸念されているマラソンを例として、競技の途中で生じた事故(マラソン事故)に関する損害賠償請求について考えてみる。

 争点は過失の有無

 マラソン事故を原因として、被害者側が大会主催者側に対し、損害賠償請求をする場合に考えられる法律上の根拠としては、主に(1)不法行為に基づくもの(不法行為責任)(2)契約上の安全配慮義務違反に基づくもの(債務不履行責任)がある。

 不法行為責任を追及する場合には、被告(主催者)の故意過失を原告(被害者)が主張立証しなければならない。マラソン事故において主催者側に故意があるケースは考え難いので、通常は過失の有無が争いとなる。過失とは、一般に「結果発生の予見可能性がありながら、結果の発生を回避するために必要とされる措置(行為)を講じなかったこと」(結果回避義務違反)とされている。原告は、主催者側にマラソン事故という結果の回避義務違反があったことについて、主張立証していくこととなる。

 一方、債務不履行責任を追及する場合には、「原告と被告との間における契約関係(または特別な社会的接触関係)の存在」と「被告の原告に対する契約関係に基づく安全配慮義務の存在」とが必要になる。安全配慮義務は、身近な例でいうと、労働契約において、雇用主(会社)は労働者に対し職場の安全に配慮すべき義務を負っているのがこれである。判例ではスポーツ大会においては、大会主催者と被害者(選手)との間には何らかの契約関係(大会に参加を申し込み、それを承諾するという「参加契約」など)が存在すると認定されているので、原告は、主催者側が「事前の事故防止義務」「看護救助体制の確立義務」「事故発生時の救護措置義務」などを負っていたこと、およびそれらの「義務違反」があったことを具体的に主張立証していくことになる。

 不法行為責任でいうマラソン事故発生の回避義務違反と債務不履行責任でいう安全配慮義務違反の内容はほぼ重なり、この義務違反があれば主催者は損害賠償責任を負うことになる。

 「真夏の五輪」自体が

 東京五輪でマラソン事故が生じた場合、主催者として責任を問われるのは誰か。IOC、組織委員会、JOC、東京都、日本政府など多くが開催に関わっている。オリンピック憲章には「オリンピック競技大会を開催する栄誉と責任は、オリンピック競技大会の開催都市に選定された1つの都市に対し、IOCにより委ねられる」(和訳)と書かれている。開催の英文を見るとhostingとなっているので、主催とも解釈できる。

 そうなると主催者は都ということになる。しかし、同憲章で「オリンピック競技大会はIOCの独占的な資産であり、IOCはオリンピック競技大会に関する全ての権利を所有する」としていることや、大会への参加決定権はIOCにあること、大会やオリンピック資産からの収入はIOCに入ることなどからすると、IOCが主催者といえるであろう。そのためIOCは、冒頭に挙げたように「暑さ対策を計画している」との発表を行い、それを実行させようとしているのである。そもそも、真夏に五輪を開くという日程をIOCが決めたこと自体が問われる問題だが、最大限の対策を採ることと事故が起こらないことを祈りたいものである。

【プロフィル】宮田正樹

 みやた・まさき 阪大法卒。1971年伊藤忠商事入社。2000年日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年から現職。二松学舎大学大学院(企業法務)と帝京大学(スポーツ法)で非常勤講師を務めた。