「秘匿特権」欧米と足並み、企業リスク軽減 課徴金は「裁量型」に

 

 談合などの疑いで調査を受けた企業が弁護士とのやり取りを秘密にする「秘匿特権」が、実質的に認められる方向となった。独占禁止法改正に弾みがつく上、欧米のルールに合わせることで企業リスクも軽減されそうだ。

 通常、企業が談合やカルテルなどの違反が疑われる行為を内部調査などで把握した場合、法務担当者は独占禁止法違反に該当するかなど法的問題点を専門の弁護士と相談し、対応を協議する。

 秘匿特権の導入を求める声が高まった背景には、こうした弁護士との事前のやり取りが公取委や海外の当局に押収され、証拠化される懸念があった。独禁法に詳しい平尾覚弁護士は「秘匿特権が認められていない日本では、企業と弁護士の率直なコミュニケーションが阻害される恐れがある。欧米に比べ極めて不公正な状況だ」と指摘する。

 問題となるのは、国際カルテルなどのケース。例えば、米国の民事訴訟などで弁護士とのやり取りを証拠として強制的に提出させられ、巨額賠償を命じられるリスクが生じる。平尾弁護士は「秘匿特権があれば、企業と弁護士の間で率直な情報のやり取りが促進され、得られた情報に基づいて弁護士が企業に公取委への自主申告を促すなど、適切な方向に企業を導くことも可能になる」と利点を挙げる。

 これに対し、公取委は秘匿特権を悪用した証拠隠滅を懸念しているが、独禁法改正の議論の妨げになっているとして、実質的に容認する方向に傾いた。

 改正案の柱は、企業が談合などを公取委に自主申告した場合に課徴金が減免される課徴金減免(リーニエンシー)制度の見直しだ。制度に基づく企業の申告件数は、平成18年1月の制度導入から29年度末まで1165件に上る。企業から毎年100件前後の申告がある計算で、制度は公取委にとって「最大の武器」(幹部)となっている。

 ただ、現行では「先着順」で課徴金が減免されるため、いち早く申告して減免の権利を得る一方、その後の調査には非協力的となる企業もあるという。

 このため、調査への貢献度に応じて課徴金を減らしたり増やしたりする「裁量型課徴金」を導入する方向で法改正を目指すことになった。先着順で5社までとなっている適用対象数も撤廃する方針だ。来年の通常国会への改正案提出が想定されており、論議の加速が見込まれる。(大竹直樹)