【スポーツi.】タイガー“復活”と米男子ツアーの栄光

 
世界ランキングが再び上昇中のタイガー・ウッズ=米ペンシルベニア州

 男子ゴルフの米ツアー(PGA)は、上位選手のみで年間王者を決めるフェデックスカップ(全4試合)最終戦「ツアー選手権byコカ・コーラ」(20日開幕、米ジョージア州イーストレイクGC)を残すのみとなった。とにかく今年の米ゴルフ・シーンは、“タイガー・ウッズ復活”を抜きに語れない。

 抜群の注目度

 17試合に出場、優勝こそなかったが、ベスト10フィニッシュが6度、5位以内も4度と存在をアピール。メジャーの全英オープン(7月)6位、さらに全米プロ選手権では最終日、一時首位に立つなど2位…。全米プロ覇者のブルックス・ケプカが感慨深げに言っていた。

 「どこにいても、地鳴りのような歓声が聞こえてきたんだ。“ああ、タイガーが何かやったんだな”ってわかったよ」

 全米プロのギャラリー数は前年比173.5%、1日3万5000から4万人…。その多くがタイガーを見守った。全米でのテレビ平均視聴率は6.1%で、ジャスティン・トーマスが勝った昨年よりも73%アップして、約830万人がタイガーを見続けたという(数字はPGA日本公式サイトより)。

 タイガーは2013年以来、5年ぶりにフェデックスカップに出場している。ここまで3戦は40位→26位→6位と調子を上げて、今季の獲得賞金額は382万3841ドル(約4億2800万円)。ちなみにトップはJ・トーマスの約841万ドル。上位30選手だけで争う最終戦で年間王者を目指せる位置にいる。

 「とても良い状態で最終戦を迎えられる。興奮しているよ」

 かつて281週連続して1位を守り続けた世界ランキング。昨年11月には“どん底”の1199位まで沈んだが、直近21位まで上昇。2年に1度開かれる米国vs欧州の団体対抗戦「ライダーカップ」(28~30日、フランス)にも12年以来、3大会ぶりに選出された。まさに“タイガー・イズ・バック”である。

 タイガーと米ツアーの関係。切っても切り離せない“栄光の軌跡”であるのだ。

 1990年代前半まで、日米ツアーの差は、ほとんどなかった。90年を例にとる。日本の賞金王は尾崎将司で約1億2900万円、米はグレッグ・ノーマンで約116万ドル…。ところが、90年代後半から賞金総額はうなぎ上り。昨年の賞金王、J・トーマスは約992万ドル、日本の宮里優作は約1億8300万円と格差が生まれた。理由は明瞭だった。タイガーの出現から始まったのである。

 「タイガーの存在が、世界中を魅了した」とPGA関係者。外国からツアー放映権の問い合わせが相次ぎ、契約が次々と成された。今や世界200カ国以上と結んでいる。さらにスポンサーからの収入などを合わせると米ツアーの総売り上げは、10億ドルにもなっているという。

 おかげで、今季は49試合、賞金総額は約3億7110万ドル、日本円で約415億円にもなった。日本の男子ツアーはというと、今季26試合で総額35億775万円…。タイガー出現以降、日米は雲泥の差となった。

 グローバル化推進

 とはいえ、栄光は永遠に続くものではない。PGAは7月、来季(18~19年)の日程を発表した。今季より3試合減、46試合になった。「スポンサーとの調整がつかなかった」ということだが、将来に向け“対策”も抜かりない。着々と進める“グローバル化”である。

 既存開催国である英国、カナダ、マレーシア、中国に加え今季から新たに韓国で「ザ・CJカップ」、中米・ドミニカ共和国で「コーラルズプンタカナ選手権」と地域を拡大させた。

 そして次なるターゲットは日本。米、欧州に次ぐ“世界3位”のゴルフ・マーケットは魅力に映る。PGAは16年10月、アジア全域の中核オフィスという位置づけで東京支社を設立。昨年12月には、男子ゴルフの日本ゴルフツアー機構と提携に関する基本契約を結んだ。「いますぐ日本で…とは考えていない」と発言していたが、近い将来、日本国内での米ツアー共同開催に向けて協議を進めるという。

 タイガーで栄光をつかみ、タイガー復活で、さらにグローバル化を推進…。PGAのビジネス戦略には、いつもタイガーというカードが存在している。(産経新聞特別記者 清水満)