【ニッポンの議論】運休による混乱や、周知をめぐる課題も 鉄道計画運休、今後の展望は

 
市川宏雄氏

 非常に強い勢力で日本に上陸した台風24号に備え、9月30日、事前告知をした上で鉄道の運行を取りやめる「計画運休」が首都圏で初めて実施された。国土交通省と鉄道各社が10月に行った検討会議では「計画運休は適切で今後も必要」との見解が示された。一方で、運休による混乱や、周知をめぐる課題も指摘されている。計画運休のあり方について、危機管理に詳しい明治大学名誉教授の市川宏雄氏と、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏に聞いた。(村田直哉)

 --計画運休についてどう考えるか

 「リスク管理の視点から計画運休は必要と考える。危機管理学の分類上は『事前準備』にあたり、鉄道事業者として、やれる準備はやっておくというのが原則的な考え方だ。一方、鉄道事業者だけでなく利用者側にもリスク管理の考え方が必要だ。台風などの災害時には不要不急の外出は避けることはもちろん、電車はどんなときでも動くわけではなく状況次第で止まる恐れがあることを認識すべきだ」

 --今回は運休の発表が当日だった

 「公共交通を担う企業は、運行を止めてはいけないという切迫感が常にある。台風の進路が変わり、計画運休が『空振り』になる恐れもあり、ギリギリまで発表を躊躇(ちゅうちょ)したのだろう。空振りを恐れず、リスク回避の対応を取るべきだ。ただし、鉄道利用者に不便をかける以上、駅ごとの対応も含めて、即座に情報を出す仕組みが利用者の理解を得るためにも必要と考える」

 --台風のリスクにいかに対応すべきか

 「鉄道事業者は風や雨の強さや範囲など一定の判断基準を定めることが必要だ。利用者に対しても、明確に判断のプロセスを説明できる」

 --今回、鉄道各社の運休の足並みがそろわなかった

 「JR東は規模が大きく(一部地域の)運休による収支への影響は小さいが、首都圏の私鉄などには打撃だ。足並みをそろえるのは難しいだろう」

 --企業は計画運休に伴う出社可否の判断が難しいとの意見がある

 「一部の路線が動いているとはいえ、いずれは止まる可能性が高い。このような状況で、どう行動するかは会社の内規で定めるべきだ。例えば計画運休が実施されたら出社せず、テレワークなどを利用することを規定化すればよい。災害時にテレワークなどが有効であることは以前から議論されていたが、導入している会社は少ない」

 --関西では計画運休が定着している

 「関西では平成26年に計画運休を経験しており、加えて今年地震や豪雨などの災害が続いたことが要因だろう。災害の経験があると、対策への感度はより高く、前向きになる傾向がある」

 --計画運休は今後どうあるべきか

 「計画運休の定着には、鉄道事業と利用者の双方が『災害に遭遇しないことが最も大切』という認識を共有することが必要だ。さらに運休の基準を決める必要があり、これが明確であれば批判も大きくはならないだろう。今回の計画運休で、利用者は電車が災害で止まる可能性があることを認識したはずなので、次は鉄道事業者がどのような時に電車を止めるか、明確な基準について真剣に考える時期を迎えている」

 【プロフィル】市川宏雄

 いちかわ・ひろお 昭和22年、東京都出身。早稲田大大学院博士課程、ウォータールー大大学院博士課程修了。富士総研などを経て平成9年から明治大教授(都市政策・危機管理)。30年より同大名誉教授。

 --計画運休の是非をどうみるか

 「都市や鉄道が災害に遭う確率がある程度高いと事前にわかれば、混乱を避ける意味で、適切で必要な措置だ」

 --自然災害の恐れが少ない路線に運休は不必要との見方もある

 「東日本大震災の際、ほとんどの電車が運休する中で、地下鉄の銀座線は運行を続けたが、乗客が集まりすぎて逆に電車を止めることがあった。計画運休については鉄道各社で足並みを合わせることが必要だ」

 --警戒が空振りになるとの批判も

 「正確な予想は困難だ。鉄道は全ての面で安全に力学が働く。例えば、列車は故障すると基本的に動かないようになっている。それと同じで、暴風雨で大きな被害が見込まれるのであれば、結果的に被害が出なくても、事故を防ぐために止める考えは筋が通る」

 --今回の計画運休をどう見たか

 「乗客は駅に行けば正確で早い情報があると認識しがちだが、実際は駅員がリアルタイムに情報を把握できず、インターネット上の情報の方がより早いという声もある。運休時間や対象路線などが鉄道関係者から見ても分かりづらく、利用者による内容の正確な理解につながっていない。情報周知は多様な方法がある。事前にテレビやラジオなどのマスコミや、SNSを通じた告知があるが、駅でも正確な情報が入手できるよう、駅員間の情報共有や、状況を一目で把握できるモニターなどの充実も求められるのではないか」

 --計画運休翌日にも入場規制がかかるなど影響も出た。

 「予想が甘かった。線路の点検は暴風雨の中ではできず、台風の通過後に被害が出る場合もある。今回は『翌日の運休は様子を見て決める』ことになっていたが、確実に混乱が起きる。時間をはっきり決めるべきだ。一定の基準を作り、鉄道各社を一律で運休させた方がよいだろう。乗る側が一番困るのは、運行数が減ったり、遅れが発生したりすることだ。非難を恐れず完全に電車を止めたほうがよい。会社や学校も指示を出しやすく混乱を防げる」

 --運休発表が遅かったとの指摘も

 「当日公表では、駅に行って初めて運休に気付く人もいる。周知には時間がかかるとの認識が必要だ。ただ、公表を早めれば、気象予報の精度は下がる。これをどう解決するかは課題だ」

 --鉄道各社の連携や運休の指示系統をどう考えるか

 「基本的に各社間で連携はなく、問題がある。ある路線は運休し、他の路線を止めないと、乗客が集中し、運行の状況も分かりにくくなる。鉄道会社に求める判断と言うよりは、どこかが指示しなくてはならない。大雪時の間引き運転などは国土交通省が通達を行っており、台風でも国交省が通達を出せば各社も従いやすいのではないか」

 【プロフィル】梅原淳

 うめはら・じゅん 昭和40年、東京都出身。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入社。雑誌編集の道に転じ、平成12年からフリーの鉄道ジャーナリストとして書籍の執筆などを中心に活動。