【松本真由美の環境・エネルギーDiary】低炭素社会に貢献! 宮崎大の現場

 
宮崎大木花キャンパス内のエタノール製造プラント=宮崎市

 宮崎大学の木花キャンパス(宮崎市)を訪ね、低炭素社会に向けた先端研究の現場を見せていただきました。同大は、レンズを使って集めた強い太陽光を小型の半導体素子に当てて発電する「集光型太陽光発電(CPV)」の研究開発拠点で、この発電方式を利用した水素製造を行っているほか、焼酎廃液からバイオ燃料を製造する研究も行っています。

 集光型太陽光発電で水素

 CPVは、太陽を追尾しながらレンズで直達日射(太陽から直接到達する日射)を集め、集めた光を発電素子などで高効率に電力に変換します。レンズや発電素子などからなるモジュールは軽量・薄型なため、太陽を追尾する架台に多く搭載でき、発電コストの低減が期待できます。

 同キャンパス内には、大同特殊鋼製のCPV(1基14キロワット)が1基、住友電気工業製(同10キロワット)が3基、シャープ製(同10キロワット)が1基あり、計54キロワットのシステムで研究開発が進められています。CPVシステムと隣接する形で水素製造装置が設置され、CPVの電力で水電解を行い、水素を製造しています。

 研究開発は宮崎大工学部環境・エネルギー工学研究センターの西岡賢祐教授と太田靖之助教、東大の杉山正和教授らが共同で行っており、東大チームは水素発生装置を担当しています。

 効率よく水素を製造するには、まず太陽光発電の発電効率を高める必要があります。宮崎大チームは、住友電工製のCPVに取り付けるレンズの形状などを改良し、31%の発電効率を実現しました。一般的な家庭用太陽電池(15~22%程度)の約2倍です。

 さらに、CPVと水電解装置の電気的接続法を改良してエネルギー損失を抑え、2015年8月、太陽光エネルギーの24.4%を水素エネルギーに変換することに成功しました。このエネルギー変換効率は、世界最高記録です。「CO2フリー水素供給システムは、地球温暖化対策として期待されていますが、水素への変換効率が課題でした。実証でCPVから効率よく水素を製造する技術が確立できましたので、実用化はそう遠くないと思っています」(宮崎大の西岡教授)

 焼酎廃液からバイオ燃料

 宮崎大では、不動産事業などを行っているあなぶきグループ(本社・高松市)と共同で、焼酎廃液からバイオ燃料を製造する研究開発も行っています。宮崎県は3年連続で焼酎出荷日本一になっており、焼酎人気が高まるにつれて、製造工程で発生する焼酎廃液(焼酎かす)も増加し、処理に困っているという実情があります。

 そこで、宮崎大工学部環境応用化学科の塩盛弘一郎教授の研究室を訪ねました。この研究のきっかけをつくったのは、同社イノベーション戦略本部焼酎廃液事業準備室の池田勇人氏でした。

 「焼酎の製造工程で出る廃棄物の処理コストは1トン当たり6000~1万円です。近年は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を利用したバイオガス発電が注目され、焼酎メーカーの霧島酒造(本社・宮崎県都城市)が工場内にリサイクルプラントを建設し、焼酎廃液から生成したバイオガスをボイラー用燃料や発電に利用しています。ただ多くの中小メーカーはこうした設備投資ができず、廃液処理コストが収益圧迫の要因になっています」(池田氏)

 そこで「焼酎廃液から高効率にエタノールを抽出する技術を確立できないかと、6年前に塩盛教授を訪ねました」(同)という。

 濃度70%以上のエタノール

 塩盛教授に話をうかがいました。

 「焼酎廃液からエタノールを抽出する技術は従来ありましたが、重量のわずか1%程度しか含まれておらず、効率の悪いものでした。大学の実験室で入念な検証実験を行い、焼酎廃液と芋くずなどのデンプン質を混ぜ合わせ、焼酎廃液に含まれる酵母や酵素の働きで発酵させると5~10%程度のエタノールを生成できることが分かりました。これを蒸留装置にかけ、1回の蒸留で濃度70%以上のエタノールを抽出することに成功しました」

 焼酎廃液の酵母は、通常55度でほぼ死滅します。しかし、焼酎の蒸留工程に、減圧蒸留(圧力を下げて沸点を下げ、低い温度で速やかに蒸留する手法)を採用し、60度前後で低温沸騰させると、焼酎廃液の酵母が生きていて、糖化酵素も活性を保っていることが確認されました。そのため、エタノールの抽出には減圧蒸留から発生した焼酎廃液を使っています。

 「濃度70%以上のエタノールを燃焼させるボイラーは市販されており、発電用燃料として利用できます。エタノールを抽出した後の残渣(ざんさ)は、乾燥させると固形バイオ燃料になります」(塩盛教授)

 宮崎大木花キャンパスの敷地内に17年10月下旬、焼酎廃液から燃料用エタノールを製造するプラントが完成し、稼働を始めました。1回当たり約50キログラムの廃液と芋くずを処理し、最大8キログラムの70%エタノール燃料と30キログラムの固形燃料を生成することができます。プラントの建設費は、あなぶきグループが寄付しました。

 「自動車燃料用のバイオエタノールは純度99.9%以上のものが多く、高度な精製設備が必要になるため、導入コストが高くなります。しかし、私たちの技術では純度70%以上のエタノールを製造するので、それほどコストをかけずに製造できます。このプラントを公開し、酒造メーカーにプラントを売り込むことも考えています。廃液処理コストを低減できるうえ、カーボンニュートラルなバイオエタノールやバイオ固形燃料を製造でき、環境ビジネスの可能性を秘めています」(塩盛教授)

 新たな環境ビジネスの芽は、丹念な基礎研究によって生み出されることを実感しました。

【プロフィル】松本真由美

 まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムのコーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。