幻の「出石鉄道SL」、原寸大段ボール模型で復元へ 新たな観光資源となるか
埋もれていた歴史を掘り起こすことは好奇心を刺激する。兵庫県北部の観光地、豊岡市出石町で、100年前に誕生し戦時中に運行休止した「出石鉄道」の蒸気機関車を原寸大の段ボール模型で復元する計画が、地元の人たちの手で進んでいる。9月に完成予定という。同町は近畿のそば処(どころ)と知られるが、鉄道路線があったことを知る人は少ない。手作りのSL模型が歴史ロマンを掘り起こし、新たな観光資源となるか。
復元に取り組んでいるのは、同市商工会青年部出石支部の会員たち。今年が同支部創立50周年となるのに合わせ、記念事業を検討していたところ、「出石鉄道」の設立100周年にあたることを知り、2年前から復元の構想を温めてきた。「過去から未来を見つめよう」との思いから、「出石みらい鉄道」プロジェクトと名付けた。
まず参考にしたのは、平成22年発刊の「出石鉄道-二千人の株主が支えた鉄道」(安保彰夫著、ネコ・パブリッシング刊)という記録本。そこに、今回復元することになる蒸気機関車「6号」の手書きのスケール図があった。ところが、左側面から見た寸法を大まかに記しただけの図で、全体像がわからない。
そんなとき、京都府与謝野町内を走っていた加悦(かや)鉄道(昭和60年に全線廃止)の機関車が「兄弟車」だったと知り、保存されている同町まで出向いて実測、復元の資料にした。
また段ボールを機関車のパーツに加工する技術については、福岡県在住の段ボール工芸作家を訪ねてアドバイスを受けた。
こうして昨年夏頃、ようやく設計図作製にとりかかった。「問題点をあらかじめ抑えておく」ために、実物の4分の1の段ボール模型製作にも挑み、年末までに両方を完成。今年1月半ばから原寸大模型の製作を本格化させた。
悲運の鉄道
軽便(けいべん)鉄道(一般の鉄道より規格が簡便な鉄道)の出石鉄道は、大正8(1919)年に会社が設立された。しかし、最初から苦難の連続だった。同支部が資料収集のため話を聞いた郷土史家の中村英夫さん(70)によると、発起人は78人だったが、その後の不況で出資していた投資家らが逃げ出してしまったという。
資金難に陥る中、鉄道敷設を願う出石町民らが「われもわれも」となけなしの金を差し出し、株主になった。その数、2063人。資本金50万円、建設費69万9千円で路線工事に取りかかり、10年後の昭和4(1929)年7月、出石-江原(現豊岡市のJR江原)間11.2キロがようやく全線開通した。
当時の新聞には「十年間の苦労が報いられ わき返る出石町」という見出しや、「汽車の窓から鶴(コウノトリ)が見られる」などと記した同乗記が載り、町民挙げて開通を祝ったという。
だが、「短命、悲運の鉄道」(中村さん)だった。全線7駅、片道約30分の区間を1日6~9往復していたが、台風や大水で2回にわたって円山川を渡る鉄橋が流失。全線営業が約3年間できなくなり、赤字が続いた。
さらに復旧直後の昭和18年12月、国家総動員法に基づく「不要不急線」に指定されたことで、翌19年5月に運行休止となり、戦時下の金属供出で線路が撤去された。
戦後は町民による復活運動も起きたがかなわず、代償のバス運送(自動車運輸営業権)はその後、地元のバス会社に譲渡。名前だけ存続していた鉄道会社は昭和45年に正式に廃止され、同町は鉄道アクセスがないまま現在に至っている。
その出石鉄道を最初に走ったのは蒸気機関車でなくガソリンカーだった。煙がでない汽車として珍しがられたが、いかんせん馬力がない。地元の芸者たちに都々逸で「出石鉄道は煙も吐かぬ 吐かぬはずだよ人が押す チョイナチョイナ」と歌われたほどで、安価なガソリンカーの採用は「安物買いの銭失い」といわれた。
蒸気機関車はその後に導入され、3台が貨物、客車を引いた。「6号」は昭和11年に導入。しかし、26年に解体され、いつしか忘れ去られたという。
迫力の復元模型
原寸大の復元模型は、横7.8メートル、幅2.2メートル、高さ3.5メートル。作業は同支部で行い、出石名物の皿そば店の店主や建築士、技能士ら20~30代の会員約20人が連日集まって段ボールをくりぬいたり、切り張りしたりしている。車輪だけでも直径1.4メートルあり、段ボールといえどもけっこうな迫力だ。模型は9月1日に完成披露の予定。
明治以降の鉄道草創期、日本海からの海上攻撃を避ける輸送路確保などのため、京都・丹後地方から、出石町や近畿最高峰の氷ノ山(ひょうのせん)付近を通り、鳥取・若桜(わかさ)町まで結ぶ山間の「但馬鉄道計画」があったという。出石鉄道はその一部に位置づけられていたといい、現在は橋脚跡などが残るものの、起点の出石駅をはじめ廃線跡を見つけるのは難しい。
城下町として栄え、古い家並みが残り、「但馬の小京都」といわれる出石町。現存する近畿最古の芝居小屋「永楽館」では毎年秋、人気歌舞伎役者の片岡愛之助さんが座頭を務める「永楽館歌舞伎」が行われ、観光バスで京阪神方面から大勢の見物客が訪れるなど、鉄路の玄関口がなくてもにぎわいを見せている。蒸気機関車の復元模型を通して紹介される幻の出石鉄道も注目を集めそうだ。
豊岡市商工会青年部出石支部の川原一郎副支部長(35)は「忘れられたまちの歴史に光をあて、未来を照らす起点にしたい。そして次の世代へもレールを敷きたい」と話している。
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