【東京商工リサーチ特別レポート】東京五輪後のオフィス・ホテルはこう動く 森グループ創業家の女性社長が予想
都心部のオフィス市場が好調だ。大量供給が危惧された新規物件や既存物件も、順調にテナントが決まり、東京五輪やインバウンド効果を背景にしたホテル開発、商業施設なども活発に動いている。東京商工リサーチ(TSR)は、オフィスビルやホテル開発で攻勢を続ける総合デベロッパー、森トラストの伊達美和子社長(森グループ創業家出身で森章前社長の長女)に不動産市況や業界の課題、自社の今後の展望を聞いた。
――首都圏のオフィス事業の近況は?
「2019年1月の都心部のオフィス空室率は1.78%で、過去最低と言えるほど低い。一方で、18~20年は大量に大規模な開発が計画され、順次竣工した。その中で供給過剰ではないかと言われていたが、19年までの段階で空室率は低く、19年竣工のものはほぼ埋まってきている。20年は我々のリーシングは非常に好調な状態で、他の20年の案件についても動きがそれなりにあるのではないかと思っている。そういう意味ではメディアが報じる通り、この瞬間は好調な状態だ」
――他方で今後を不安視する声も聞かれるが
「次に何が起きるかというと、企業の移転が起きる。企業がなぜ新しいビルに移転するか。分散していたものを集約するというニーズがあるからだ。この数年、そのニーズに対応できるオフィスビルが供給されたので積極的な移転が起きている。加速する企業の移転は、『追加投資をしてでも会社の環境を良くし、生産性をあげよう』と動いている証と言える。その移転タイミングとうまく合ったので、新規の需要が強い」
「ただし、移転後には、空き室ビルが出てくる。少し古かったり、大規模でなかったり、駅から少し離れている、といったビルが人気を落とすだろう。テナント移転が一段落したとき、空き室率が多少目立ってくる局面もあるだろう。ただ、過去のトレンドを見ても、建物を所有する側に体力があって、投資した物件の価値を高められることができれば、数年かけて必ず埋まっている。現状に関しては、どこも長引かず埋まっていくと感じている」
「東京都心は数年に1回大規模な投資がされるので、その都度移転が起き、どこかが空いて、またそこが変わっていく。東京はある種のエコシティで循環都市、稀有な街と思っている」
虎ノ門、赤坂、田町でオフィス計画
――今後のオフィスビルに関する戦略は?
「基本は、昔から「選択と集中」。都心部を中心に、交通アクセスの良い利便性の高い場所に作っていくこと。そして、大規模なものを作っていく。そこに複合開発としてホテルや住宅を入れ、使いやすいプレートを用意する。今後は、虎ノ門のあとに赤坂、田町でオフィス計画を持っている」
――株式上場の意向は?
「現状は特にない。上場のメリットは資金調達だと思うが、今のところ投資計画と調達のバランスが取れている」
――ホテル業界、足もとの市場動向は?
「インバウンドが好調で、良い方向にある。ここ4、5年で訪日客の増加も影響し、インバウンドは平均20%ぐらいの成長率だった。最近の伸びは、分母も大きくなっており鈍化傾向にあるが、それでもポジティブに捉えている。地方の(インバウンド)成長率も期待できる状況だ。一方、(訪日客の)単価は変化がほぼない。逆に、数千円単位で下がっている。客数が増加していることを踏まえると、彼らに付加価値の高いものを提供できる状態にはなっていないと考えられるだろう」
――単価が上がらない原因は?
「インバウンドの増加に合わせてホテルの供給も進んでいるが、その約8割はバジェット(低価格帯)型だ。宿泊費と食費の予算は連動し、比例する。そのため、バジェット型に宿泊した場合、滞在する施設で使う金額の上昇は期待しにくい。国の投資戦略も、まず民泊など低価格帯に向いた。そうなると宿泊施設数は順調に増えるが、一人当たりの単価は安い方に動く」
「もう一点は、クルージングが挙げられる。国は港、埠頭の投資を積極的に進めるが、クルーズ船が寄港しても、船の上であらゆるサービスが提供されているため、乗船するお客様が日本にお金を落としてくれるわけではない。これも単価の伸び悩みを招く要因だ」
前例のない奈良は将来性を考えて進出
――日本は海外に比べ、富裕層向けの高級ホテルが少ないのでは?
「東京はお客様が(高級ホテルを)選べる状況になってきた。大阪も増えてきた。その一方で京都は不足しているし、北海道でもニセコは増えているが、札幌はまだ足りない」
「例えば、海外からの(富裕層)観光客が国内各地を回りたい場合、東京で豪華なホテルに宿泊し、地方へ向かおうと思っても『泊まりたい』施設がなければ、せっかく魅力的な地域であっても、宿泊施設がないためにそこを選択しない可能性もある。街にとっても機会を逸することになる」
――2020年に開業する奈良の「J.W.マリオット」は高級ホテル需要への対応か?
「奈良は将来性を考えての進出になる。これまで、奈良に外資系の高級ホテルはなかった。他社の前例がなく、成功を決定づける明確なデータが今のところ存在しない。だが、外国人観光客の潜在的なニーズを鑑みると、奈良で受け皿(ホテル)は今後必要になるだろう」
――進出発表後、他社も後乗りしているが影響は?
「実際、当社が開業を決めてから県内10カ所ほどで進出の計画があると聞く。それはむしろ良い影響を及ぼすだろう。一人勝ちではなく、何カ所か同じランクのホテルがあることによって、市場からの注目は高まっていく。どこに滞在するかは、顧客側のニーズで決まる。各社が努力することで、さらに良いサービスが提供される」
「EDITION」が東京に進出
――日本初上陸の高級ライフスタイルホテル「EDITION」を2020年に虎ノ門で、2021年に銀座で開業する
「世界のブティックホテルを手掛けるイアンシュレーガー氏とマリオットが手掛けていることもあり、オープン前でありながら大変注目して頂いている。EDITIONはニューヨークやロンドンですでに高い評価を得ており、上海、バルセロナ、ドバイもオープンしたばかり。ライフスタイル系のホテルでありながらラグジュアリーで、感度の高い富裕層を中心に人気を集めているようだ。世界的に先駆け的なものを早々に東京に持ってきた、ということが私たちの強みでもある」
――来年は東京五輪が開催されるが、景気減速も予測されている
五輪時は、宿泊業で特需は起きる。一方、翌年(21年)は通常の稼働に戻ったとしても、反動で前年比マイナスとなるだろう。なので、あまり悲観的には捉えていない。ただ、五輪開催に合わせ、日本で大規模な国際会議が来年上半期にかけて多く開かれる。この波が(五輪)開催後であればありがたいのに、と思うことはよくある(笑)」
「問題はこういった会議需要が五輪後、パタリと途絶えてしまうことだ。ロンドンは唯一、五輪後に需要が伸びた。その状態にどうやったら持っていけるのか。業界だけでなく、国でもしっかりプロモーション等の方策を講じるべきだと思っている」
ライバルは世界の主要都市
――五輪後の戦略は?
「五輪開催までは奈良、そして都内でEDITIONの開業を予定する。私たちがターゲットとするのは、買い物などの“モノ消費”の重視でなく、“コト消費”に重点を置くお客様である。彼らは日本ならではの“美しさ”に触れる 知的好奇心や非日常性を求めている。わざわざ時間とお金を掛けて海外に行く、だから何を味わおうか、と。ライバルは世界の各主要都市だ。五輪後、彼らが日本の中で魅力的に感じられる地域はどこだろうか-と、今はニーズを講じている最中だ」
――沖縄でのホテル開発も話題になっている
「沖縄本島から陸路で行ける瀬底島(名護市の北東に位置)にヒルトンホテルの誘致、および、ヒルトン・グランド・バケーションズという会員制のタイムシェアリゾートの誘致に向け、開発を推進している。ヒルトン・グランド・バケーションズは、『アジアだったら最初は日本』と考えていたようだ。彼らにとって沖縄はハワイと同等レベルに魅力のある地域であると捉えている。開業予定の瀬底島も以前から積極的に目をつけ、(進出の)時機を待っていたと聞いている」
――近年、ニセコ(北海道)の人気も過熱している
「新幹線が通った際には、今の比ではないほど爆発的な盛り上がりを見せるだろう。本州からも非常に短時間で向かうことが可能となる。スノーリゾートで見れば、世界の中で比較すると交通アクセスは良い方だ。(新千歳)空港に着いて、快速などを乗り継いで2時間と少しで行けるというのも悪くない。パウダースノーも外国からのお客様にとって大変魅力的。スキーに飽きたら札幌に買い物に出かけることもできる、という意味では強い」
◇ ◇
明るく笑顔をみせつつも歯に衣着せぬ物言いで、現状の過熱する不動産需要、五輪開催後の市況を語る伊達社長。その理知的で明快な独自分析には、業界内外でファンも多い。
不透明感の強い2020年以降の景気対策には、「五輪後のビジョンを明確に」と提言する。観光の側面では、五輪のレガシーを最大限に生かしたい国・東京都の考えに同意を示すが、一方で「どのようなプロモーションを打つことで魅力ある観光資源をPRできるのか、“レガシーとは何か”をもっと議論を尽くすべき」と指摘する。
現状を悲観的に捉えるのでなく、その先の道を冷静に見据える伊達社長。その姿勢や考え方に多くの社員が共感し、学んでいることだろう。
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