知財の世界から競争力強化へのヒントを探る。今回は一橋大学大学院教授で、知財法が専門の相澤英孝氏に知財立国宣言後10年の現状、日本の知財裁判の課題、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の見方などを聞いた。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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(知財立国宣言以降の)知財改革推進は、ややかけ声倒れの感がある。目的は良いが具体的施策が伴わなかった。特許出願は減少傾向にあり、特許権者の勝訴率は上がっていない。企業はリターンを欲する。知財の取得、活用に元気がなくなるのは自然の流れだ。
先進国では「情報財」の重要性がとても高い。付加価値を売ることが先進国の経済を支えているからだ。付加価値とは情報財であり、誰もが利用可能な状態にある。しっかり権利(知財)として保護しなければいけない。そういった発想への転換が、今の日本社会全体において、まだできてはいないと感じている。
宣言以降、特許庁も権利内容より審査迅速化へ進んだ。日本は出願後補正がしやすく権利がとりやすかったが法改正で補正を制限した。特許庁は審査待ち滞貨解消のため、企業へ出願抑制を依頼したこともあった。
権利者勝訴率の低さは裁判所だけの責任ではない。原因は法改正で、被告側に特許無効の抗弁規定が入ったことがある。日本の裁判所は非常に優秀な法律家がそろっており、法律や制度を動かせば必ずその方向へ動く。だから、例えば賠償金をもっと取れる法律に代えてやれば、裁判所は損害賠償額を増加させる。