がん治療の研究でT細胞を扱う研究技術者(ブルームバーグ)【拡大】
子宮内の胎児にとって酵素は、胚(はい)を異物とみなして攻撃を仕掛ける母親の免疫システムから守ってくれる重要な「盾」だ。その一方で、劣性変異を持つ酵素は生体の防御システムによる攻撃から悪性腫瘍を守るため、結果的に死を招く場合もある。
そうした酵素の一つがインドールアミン酸素添加酵素(IDO)だ。最近になりこのIDOが、新たな治療法の鍵としてがん研究の分野で注目を集めている。
3年で研究拡大
腫瘍を守るIDOの働きを阻害するIDO阻害薬の臨床研究で先頭に立つのは、米バイオ医薬品インサイト。同社はがん治療大手4社のうちメルクなど3社と提携し、研究開発を進めている。まだ初期段階ではあるものの期待を集めているのが、IDO阻害薬が腫瘍の防御システムを解除し、既存療法で再活性化した感染防御細胞が腫瘍をたたくという方法だ。米シカゴ大学医学部のジェイソン・ルーク助教は「数年後には、この方法が悪性黒色腫(メラノーマ)の標準治療になるのは確実だ」と述べている。
このIDO阻害薬を用いた治療法は、シカゴで開催された米臨床腫瘍学会(ASCO)でも話題になった。同学会で発表された肺がん患者を対象とした初の臨床試験の結果は、インサイトのIDO阻害薬「エパカドスタット」とメルクのがん免疫治療薬「キイトルーダ」の併用効果を示す先の研究を裏付けた。腎臓がん、ぼうこうがん、頭頸(とうけい)部がんを対象とした研究では、治療効果の向上を示すものや腫瘍が消失した例もあったが、他の患者群ではそれほど有望な結果が出ないものもあった。