【生かせ!知財ビジネス】セルバンク取締役・前田裕子氏に聞く


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 ■再生医療関連業界は意識を高めよ

 前田裕子氏は、大手企業での導電性高分子の研究職を皮切りにベンチャー、大学、政府系機関や国立研究開発法人と産学官の世界を縦横に活躍し、知財の世界でも知られた人物だ。大手企業の執行役員から再生医療関連ベンチャーのセルバンク(東京都中央区)取締役へ転身して1年。知財面での考え方や業界の課題を聞いた。

 --上場を目指すベンチャー企業の経営者となった

 「現在でも政府の委員や大学の外部委員などの肩書きは20を超える。昨年末には安倍晋三首相の下、内閣府の総合海洋政策本部参与会議メンバーとして海洋基本計画策定へ向けた参与会議意見書の取りまとめに携わった。だが、あくまで現在はセルバンクの経営者だ」

 --セルバンクとは

 「2003年創業で社員50人、売上高約5億円。細胞の保管、細胞培養を行う専門会社だ。細胞調整センター(CPC)を備え、厚生労働省の特定細胞加工物製造事業者の認可を受け、顧客約4000人の皮膚組織の細胞を預かっている。細胞の活用法はさまざまで、心筋梗塞など疾患への応用は当然だが、主力は美容医療用だ」

 --技術や知財面での強みは

 「基本技術となる組織由来細胞の凍結保存方法や細胞凝集回避のための特許の他、培養増殖技術や保存技術、CPCの運用管理などのノウハウも蓄積し、セルバンク業務でのトップシェアを維持している。大学医学部の研究支援や再生医療機関認可への助言や指導もしている」

 --日本の再生医療関連業界の知財をどう見ているか

 「危うい、もっと知財への意識を高めるべきだ。例えば、中国などの医療・研究機関から当社のコンサルティングを受けたいという要望が多数寄せられる。彼らは高い知財意識を持ち、きっと母国で関連特許を出願し、他国でも行うだろう。もちろん、日本でもだ」

 --日本の機関も特許を出せばよいはずだが

 「背景には、医療行為に関連する発明は特許の対象外となることが多かったことや、特許侵害だからといって治療の差し止め請求はできないことなどがあった。いずれ欧米や新興諸国に特許を席巻されるかも。そういう意味では着任後に気がついた技術は特許を出願している。利用者本人の細胞由来の上澄み液を使った化粧品の特許は押さえた」(知財情報&戦略システム 中岡浩)

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【プロフィル】前田裕子

 まえだ・ゆうこ 1984年ブリヂストン入社。研究開発本部に勤務。2001年農工大ティー・エル・オー副社長、14年ブリヂストン執行役員(知財本部委員等兼務)などを経て、17年1月から現職。工学博士、海洋研究開発機構監事など公職を多数兼務。57歳。東京都出身。