【水と共生(とも)に】水へのアクセス改善が経済成長促す

SDGsを採択した2015年9月の国連サミット=ニューヨークの国連本部(国連HPから)
SDGsを採択した2015年9月の国連サミット=ニューヨークの国連本部(国連HPから)【拡大】

  • 安全で十分な水の量へのアクセスが世界的に求められている(ユニセフ)
  • 安全な水とトイレのアクセス確保をアピールする画像(国連開発計画)

 持続可能な開発目標(SDGs)が2015年9月の国連サミットで採択されてから2年半が経過した。国連加盟193カ国が16~30年の15年間で達成すべき目標を掲げたSDGsは、貧困、飢餓、健康と福祉、教育、水と衛生改善、気候変動など多岐にわたる。改めてSDGsの歴史的背景とその中の水問題について考えてみたい。

 国連の推計によると、世界人口は現在の76億人から30年に86億人、50年には98億人へ増加するとみられている。人口が増えると、生産や開発などの経済活動も活発になり、二酸化炭素(CO2)排出量も増えていくとみられる。このまま手をこまねいていては、2100年には世界の平均気温が産業革命前と比べて3.8度も上昇し、異常気象や生物多様性の喪失など大きな被害が出るおそれがある。

 また、世界全体で、もっとも豊かな人たち(世界人口の1%)の資産総額が、残りの99%の人たちの資産総額をはるかに超えているという報告もあり、貧富の格差はますます拡大すると予測されている。

 従来の開発は経済成長一辺倒で、環境破壊や人権侵害などに十分に配慮してこなかった。そうした状況を改め、将来世代を犠牲にすることなく、人類が抱える課題を包括的に解決し、持続可能な社会をつくろうとするのがSDGsである。環境、社会、ガバナンスを重視した企業投資(ESG投資)が世界的に注目されているが、これはSDGsに通じるものである。ESG投資はいまや世界の投資総額の4分の1(約2500兆円)を占めるまでになっている。欧州では投資全体の52.6%がESG投資で、米国も同21.6%を占めるが、日本ではわずか3.4%にすぎないといわれている(17年9月現在)。

 ◆SDGsが掲げた17の目標

 SDGsは、17項目の大きな目標(ゴール)と、それらの目標を達成するための具体的な169のターゲットからなる。

 (1)17項目の目標

 17項目の目標にはそれぞれ番号がふられ、1~6の目標は次のとおりである。

 1.貧困をなくそう

 2.飢餓をゼロ

 3.すべての人に健康と福祉を

 4.質の高い教育をみんなに

 5.ジェンダー平等を実現しよう

 6.安全な水とトイレを世界中に

 これら6項目は、貧困や飢餓、健康、教育、安全な水など、途上国に対する開発支援を意識した内容にみえる。

 7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに

 8.働きがいも経済成長も

 9.産業と技術革新の基盤をつくろう

 10.人や国の不平等をなくそう

 11.住み続けられるまちづくりを

 12.つくる責任 つかう責任

 7~12の6項目は、途上国と先進国、双方のあるべき姿を掲げている。

 13.気候変動に具体的な対策を

 14.海の豊かさを守ろう

 15.陸の豊かさも守ろう

 16.平和と公正をすべての人に

 17.パートナーシップで目標を達成しよう

 13~17の5項目では、地球環境全体を包括し、世界の全ての人が力を合わせ、持続可能な社会を構築しなくてはいけないという意気込みが感じられる。

 SDGsの前の目標であるミレニアム開発目標(MDGs)は、国連が途上国向けに策定したもので、主眼は各国政府に行動を促すものだった。一方、SDGsは、世界の全ての人々の普遍的な目標設定であり、政府はもちろん、それ以外のステークホルダー(NGO、NPO、企業、地方自治体、市民団体など)による目標達成に向けた取り組みが重要視されている。

 (2)「安全な水と衛生設備」の深掘り

 「ゴール6.安全な水とトイレを世界中に」を深掘りするため、具体的に6つのターゲットが設定されている。これは、16年3月から6月にかけて、国連の専門家会議で討議・決定されたものである。

 6.1 安全で十分な水の量へのアクセス

 6.2 下水・衛生設備へのアクセス

 6.3 水質の改善として、有害な化学物質の排出を減らし、未処理の排水の半減、水の再生利用の促進、世界的に安全な水の再利用を目指す

 6.4 すべてのセクターでの水利用の効率改善

 6.5 統合的な水資源管理として水の利用と循環だけではなく、流域や土地を一体として統合管理する

 6.6 水に関する生態系の保全と再生、20年までに山地や森林、湿地、帯水層や湖などの生態系の保全と再生に力を入れる。

 これら6つのターゲットで特に興味の深いのは「6.5」と「6.6」である。水に関する生態系の管理で、同じ流域(国際河川)に位置する複数の国による適切な管理を求める内容で、「越境協調・水資源管理」の考え方が強調されている。

 (3)他の目標達成に貢献する「安全な水と衛生設備」

 ◆全利害関係者の参加要求

 SDGsは、全てのステークホルダーの参加を強く求めている。今の社会では、貧困、食糧問題、水、エネルギー、森林、気候変動などの問題は相互に複雑に絡み合っており、鳥瞰(ちょうかん)図的な視点を持たないと解決策が見えてこない。

 例えば、「6.1と6.2 安全な水とトイレを世界中に」の達成にはグローバルなパートナーシップが不可欠で、強いガバナンスが求められる。

 また、他の全ての目標が、水問題の解決と深く関わっている。例えば、安全な水へのアクセスが改善されると、児童や婦人の家事労働時間が低減されることになり、教育の改善、労働機会の増進、貧困の撲滅、ジェンダー問題の解決、保健衛生の改善、ひいては経済成長の礎となる可能性を秘めている。我田引水的にいえば、水へのアクセス改善が人権問題を解決し、さらに経済成長を促す。その上で適切な水資源管理が行われれば、経済成長のさらなる拡大の“大きな呼び水”となるだろう。

 SDGsは世界共通の課題であり、全てを同時に達成する必要はない。17項目の達成に向けて方向を定め、得意な分野から日々進めることが求められている。

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【プロフィル】吉村和就

 よしむら・かずなり グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境アドバイザー。1972年荏原インフィルコ入社。荏原製作所本社経営企画部長、国連ニューヨーク本部の環境審議官などを経て、2005年グローバルウォータ・ジャパン設立。現在、国連テクニカルアドバイザー、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員、自民党「水戦略特命委員会」顧問などを務める。著書に『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』(角川書店)、『日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む』(技術評論社)、『水に流せない水の話』(角川文庫)など。