茶道具はどうして高額なのか。2016年には「油滴天目」という茶碗が約12億円で落札された。ヴァイオリニストが高額な楽器を使うのは、最高の響きを提供するためだろう。だがどれだけ高額な茶碗を使っても、味は変わらないはずだ。なぜ達人は「100円の茶碗」を選ばないのか。大日本茶道学会の田中仙堂会長が解説する--。
室町時代末期には「評価額」があった
2016年、クリスティーズの開いたオークションで、「油滴天目茶碗(ゆてきてんもくちゃわん)」が約12億円(1170万ドル)という高額で落札されたことが話題になった。
なぜ、ただの茶碗が12億円もするのか。それはこの茶碗のもつ歴史が関係している。
油滴天目の歴史は古い。制作されたのは12世紀から13世紀ごろだとみられている。室町時代八代将軍義政に仕えた能阿弥(1397~1471)を作者と伝える座敷飾りのマニュアル『君臺観左右帳記』には、すでに「五千疋」という価格が記されている。
疋(ひき)とは、金の貨幣単位で、100疋=1貫文と換算される。1貫文は、現在の価値で10万円程度だといわれているので、5000疋=50貫文=500万円ということになろうか。貨幣価値は時代によって大きく変わる。あくまで目安ということでご容赦願いたい。
重要な点は、室町時代末期には「評価額」があったということである。このマニュアルには、ほかの茶道具についても評価額が記されている。高額な順にならべると、曜変(1萬疋=1000万円)、油滴(5千疋=500万円)、建盞(3千疋=300万円)、鼈盞(1千疋=100万円)、烏盞(代やすし)、能盞(代やすし)といった具合である。