【寄稿】国連気候変動“ボン会議”を開催 堅実だがペースの遅い進展に懸念も

 □WWFジャパン自然保護室 気候変動・エネルギーグループ長 山岸尚之

 今年12月にポーランド・カトヴィツェで開催予定の国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)に向けての準備会合が、4月30日~5月10日までドイツ・ボンで開催された。

 会合の主要テーマは2つあり、1つはパリ協定を実際に運用するにあたってのルール作りである。これはルールブック(実施指針)と呼ばれているものである。もう1つは、各国の野心レベルを引き上げるための「タラノア対話」に関する最初の国連公式イベントであった。

 ◆ルールブック交渉の進展

 COP24で合意する予定のパリ協定のルールブック交渉については、堅実な進展を見せたものの、12月に開催されるCOP24でのルールブック採択という締め切りを考えると、ペースとしては遅い。そのため、9月上旬にタイ・バンコクで追加会合を開催し、交渉をさらに詰めることが合意された。

 今回の交渉も、これまでと同じく、議題ごとに割り当てられた2人のファシリテーター(会議の進行役)が「インフォーマル・ノート」という文書を、各国の意見を取り入れながら作成する形で進められた。交渉そのものは、比較的堅実に推移しているものの、相変わらず各国間の対立は根強く、交渉の進展は遅々としている。

 論点は多岐にわたるため、すべてを解説することはできないが、1つだけ対立が顕著な争点の例を挙げると、NDC(Nationally Determined Contributions)と呼ばれるパリ協定の下での国別目標の指針を定める議論がある。現状、多くの国は2030年に向けて温室効果ガスの排出削減目標を持っているが、2020年までにそれを見直して再提出し、2025年までに次(2031年以降)の新しい目標を提出することがパリ協定で決まっている。目標を再提出する際、どういう情報を入れ込むべきか、という論点である。

 日本も含めた先進国は、基本的に、「途上国にもっと目標についての情報を出させる」という点を重視した主張を展開している。これに対し、中国、インド、サウジアラビアなどからなる途上国の強硬派グループが反対し、パリ協定の下での国別目標には、協定の定義上、「(先進国からの)資金支援」などに関する目標も含まれるべきだと主張する。

 そこに、アフリカ諸国のグループが、途上国からの情報をあまり求め過ぎるなと同調したり、逆に、島嶼国グループや一部の中南米諸国(ペルー、コロンビアなど)からなるグループが、やはりこの議題は緩和(排出量削減)に関する情報をきちんと整理するべきだ、と主張をしたりして、交渉は複雑な様相を呈している。

 こうした議論が、主要な交渉舞台となっているパリ協定特別作業部会(APA)だけでも6つの分野に分かれて存在し、それぞれについてインフォーマル・ノートと呼ばれる文書に議論を落とし込んでいく作業が行われた。

 今回の結論では、APAの共同議長が8月1日までに、今回の会議でまとめられたインフォーマル・ノートの中身を整理したり、今後どう進めていくかの案を出したりすることになった。まだまだ積み残した課題が多く、予断を許さない状況が続く。

 ◆タラノア対話

 タラノア対話は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が今年1月にウェブサイトを開設し、各国や非国家主体(企業・自治体・市民社会など)からの意見提出を求めた時点で始まっているが、今回の会合で初めて、国連の場で公式なイベント(5月2、6、8、9日)が行われた。

 会期中の日曜日(5月6日)に開催されたイベントでは、7つのグループに分かれてディスカッションが行われた。各グループには、政府、非国家主体からの参加者も含む35人が割り当てられ、1日かけてタラノア対話の3つの課題について「ストーリー」を語った上で議論をする形式がとられた。3つの課題とは、パリ協定が掲げる“2℃目標”などに対して、(1)現状どこにいるのか? (2)どこに到達したいのか? (3)どのように到達するのか?-である。

 グループディスカッションには、割り当てられた35人しか参加できない(ウェブ上で議論を外部から見ることはできた)。しかし、非国家主体の直接的な参加があり、かつ、国の代表に「ストーリー」を語らせるのは、国連気候変動会議の歴史の中では極めて異例な形式である。

 「タラノア」は、フィジー語で包括的かつ透明性のある対話を意味する。

 いつもの交渉とは違い、「ストーリー」を語るという形式は、おおむね各国に好評だった。従来の交渉では、相手の論点の甘いところをつき、自国に有利になるよう議論を戦わせている交渉官たちが、フィジー(昨年のCOP23の議長国)の伝統である「タラノア」という対話のスタイルを試したことで、この問題に共同で取り組んでいくことの重要性を再確認する機会を得て、協働意識の醸成に貢献したようである。

 ただ、タラノア対話の最終目的は、各国の削減努力、特に削減目標を強化していくことにある。COP24をそうした議論に持っていけるかどうかは、12月のCOP24までにどれくらい各国・地域でタラノア対話の気運を共有し、実施していけるかにかかっている。

 その意味では、今後、国連の場以外で、どのような気運醸成に向けた動きが出てくるかが重要になってくる。国連は、各国・各地域で独自のタラノア対話開催を呼び掛けている。欧州連合(EU)では6月中にも独自のタラノア対話を開催することが決まっており、米国では、昨年の「We Are Still In(私たちはパリ協定にとどまる)」の流れからカリフォルニア州でのグローバル気候行動サミット(GCAS)開催が9月に予定されている。

 こうした機会を通じて野心引き上げに向けた気運が醸成され、閣僚たちを招いて行われるCOP24の「政治的フェーズ」が、意義ある成果を生み出せるかどうかが、今後の大きな注目ポイントである。そして、こうした流れの中で、日本国内でもそうした動きを作りだせるかどうかが問われている。

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【プロフィル】山岸尚之

 2003年に米ボストン大大学院修士号を取得後、WWFジャパンで温暖化とエネルギー政策提言に従事。