【終活の経済学】遺品・生前整理の極意(5)「老前」の薦め

坂岡洋子さん。各地で講演会やセミナーを開いている。講演情報などは「くらしかる」(http://www.kurasikaru.com/)で
坂岡洋子さん。各地で講演会やセミナーを開いている。講演情報などは「くらしかる」(http://www.kurasikaru.com/)で【拡大】

 ■元気なうちに「人生の棚卸し」

 40代、50代といった現役時代から自分で身の回りの片付けをすることを指す『老前整理』という言葉が注目を集めている。新潮文庫などから出されている『老前整理』のタイトルをつけたシリーズ本が、累計23万部のヒットとなっている。シリーズ本の著者で「老前整理」を提唱する団体「くらしかる」代表の坂岡洋子さんに聞いた。

 ◆取捨選択への基本

 「老前整理」は、ケアマネージャーでもある坂岡さんが、介護の現場での実感から思いついた。介護を受ける段階になれば、自分で身の回りの片付けをするのは難しくなる。それなら「老いる前」の体力のあるうちに整理をすべきだ、と。

 「物を整理するには、いわゆる片付けのノウハウよりも大事なことがあります。それは、物は思い出とともにある、ということ。人生を振り返り、今後の人生をどう生きていくのかを考える。いわば“人生の棚卸し”。それこそが取捨選択するための基本です」と坂岡さんは語る。

 「遺品整理」が難しいのは、この「思い出」が存在するためだ。親や配偶者の遺品には思い出が詰まっている。

 さらに死別による悲しみもあって、容易には捨てられない。だからこそ家財の整理は、自分が元気なうちに、自分の手ですることが一番だと坂岡さんは考える。

 片付けを始めると、多くの家財は「まだ使える」と感じることだろう。しかし実際に使っていないのであれば整理の対象だ。

 ◆不干渉の精神で

 坂岡さんは「片付けの前に収納容器を買わないこと」と忠告する。整理は物を減らすことが目標で、不要品を収納箱に入れては意味がないからだ。

 「夫婦で老前整理をする場合には、それぞれ自分の物だけを対象にするのが基本」と坂岡さん。家族でも価値観は一人一人違うから、「要るか要らないか」の判断も当然異なる。ありがちなのが、夫のほうが無理に片付けを進めようとして、関係が険悪になってしまうこと。お互いの分を乗り越えないことが大切だという。

 たとえば「書斎は夫、キッチンは妻」というように、整理スペースの分担を決める。暖房器具のような「共有物」については、「2年間使わなければ処分する」というようなルールを話し合いで決める。

 坂岡さんは「とにかく一度で片付けてしまおうなどと思わないこと。それが老前整理の鉄則です。週末だけとか、今日は食器棚だけとか、こつこつと。ゲーム感覚で、目標をクリアするごとに“ご褒美”があってもいい。一つでもすっきりすると、どんどん片付けたくなるものです」とアドバイスする。

 家財整理に1年、2年かけてもかまわない。片付けをきっかけに、思い出を語り合い、将来のことを話し合う。そんな場が持てれば、整理が幸せな時間になるだろう。

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 ■5カ条の心得

 (1)一度に片付けようとしない

 (2)最初から完璧を目指さない

 (3)家族のモノには手を出さない

 (4)片付けの前に収納容器を買わない

 (5)「使える」と「使う」は違う