【寄稿】国連の気候変動に関するバンコク会合報告

バンコク会合が終了し、会場は拍手に包まれた=タイ・バンコク(C)WWFジャパン
バンコク会合が終了し、会場は拍手に包まれた=タイ・バンコク(C)WWFジャパン【拡大】

  • 議論が進んだ項目で、各国政府代表は笑顔で記念撮影=タイ・バンコク(C)WWFジャパン
  • WWFジャパン自然保護室次長/気候変動・エネルギープロジェクトリーダー小西雅子氏

 ■COP24に向けルール作りが意外と前進

 □WWFジャパン 自然保護室次長/気候変動・エネルギープロジェクトリーダー 小西雅子

 「パリ協定」をどのように実施していくか詳細なルール(実施指針)を議論するバンコク会合が9月4~9日まで、タイ・バンコクで開催されました。2018年末にポーランドで開催予定のCOP24(国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議)でパリ協定のルールを決めることになっており、バンコク会合はルール作りのための最後の準備会合となります。

 そのバンコク会合ではルール作りの交渉が意外と進展し、十分ではないものの、COP24での合意に向けた道筋がなんとか見えてきました。

 ◆これまでの流れ

 パリ協定は、温室効果ガスの排出を今世紀末までに実質ゼロにすることを目指す画期的な協定です。その協定が実効性のあるものになるかどうかは、ルール作りにかかっています。

 パリ協定は、緩和(温室効果ガスの排出削減)から適応(気候変動の影響に対する対策)、資金支援・技術移転など多岐にわたる包括的な国際協定であるため、決めなければいけないルールは60以上にのぼり、その交渉は一筋縄ではいきません。

 5月にドイツ・ボンで開催された補助機関会合(準備会合)は、ルールに対する各国の言い分を載せた非公式文書が作られただけで終わりました。

 バンコク会合では、この補助機関会合の非公式文書がもっと整理されたものをベースに行われることになっていましたが、議長たちから用意されたのは、ほとんど変わっていない文書だったのです。議論の進展の遅さが強く懸念されるところから、バンコク会合はスタートしました。

 ◆真剣に交渉に臨んだ各国

 こうした準備会合は各国の事務方レベルで交渉が進められますが、各国が自分の国の主張が反映されないことを恐れるあまり、議論がなかなか進展しないことがよくあります。ところが今回は違っていました。初日に行われた議論のプロセス説明について文句を言う国がなく、ルールをめぐる議論がスムーズに始まりました。

 そして、項目によって差はあるものの、12月のCOP24に向け、ルール文書の草案となる文書が形作られるなど、ルール作りがある程度進展しました。

 10月下旬にはプレCOP(閣僚級非公式準備会合)が開催されますが、バンコク会合で作られた各ルールのテキスト文書をもとに、議長団がさらに整理したテキスト案を出すことで合意しました。

 大きな進展がみられた項目の1つが、パリ協定の肝である「グローバル・ストックテイク」でした。グローバル・ストックテイクは、パリ協定が掲げる“2℃目標”達成に向けた世界的な進捗を5年ごとに科学的に検証する作業のこと。この項目では、初日に各国の言い分を整理した新テキストが出され、6日間の会期中に計3回、交渉を反映した新テキストが出されました。そのテキストはCOP決定文書としての形式も備えた草案に近いものに進展していました。

 最終的に、1つの項目を除いたほとんどで、バンコク会合での交渉を反映した新テキストが作られました。各国が建設的に交渉に臨み、ルールの中身で進展が見られたのです!

 ◆深刻な対立点は続く

 重要な項目で進展がみられたといっても、先進国と途上国の根深い対立点は、ほとんどの項目においてまったく解決の糸口が見えていません。その対立点がもっとも立ちはだかって、バンコク会合でまったく新テキストができ上がらなかったのが、「国別目標(各国の削減目標/行動)」の算定の仕方についてです。先進国がすべての国を原則同じ制度の下に置きたいと考えているのに対し、新興途上国側が、先進国と途上国で分けた方法を主張し、激しく対立して議論は進みませんでした。

 パリ協定はすべての国を対象にしていますが、開発の程度に大きな差がある先進国と途上国にまったく同じルールを当てはめることはできません。そこで、途上国に配慮しルールに柔軟性を持たせることになりますが、その柔軟性をいかに設計するかが歴史的な対立点なのです。

 ただ、同じ途上国グループの中でも意見が異なり、温暖化の影響に脆弱な小さな島国連合やアフリカ諸国が、中国などの新興途上国に異を唱える場面もあります。そのため、ルール作りでは複雑な連立方程式を解くような交渉が行われることになります。

 もう1つ先進国と途上国の対立が著しいのは、資金をめぐる議論です。パリ協定では、先進国が途上国の緩和策や適応策などを資金・技術面で支援することになっています。途上国側は、資金支援をすべての論点に入れ込むことを強く主張しています。

 たとえば、緩和(温室効果ガス排出削減)の議論においても、途上国は資金援助も含めようとします。この背景には、途上国側は、温室効果ガスを排出しながらこれまでにきちんと削減努力をやってこなかった先進国が、責任転嫁するように途上国側に排出削減を求めてくることを警戒しているからです。途上国側に排出削減を求めるなら、先進国は緩和に必要な「資金・技術支援」を行うべきというのが途上国側の主張で、すべての論点において「資金がなければノー!」と強く主張しています。

 一方の先進国側は、削減目標のルールをなるべく世界共通でしっかり作ることによって、特に中国などの新興途上国に対して排出削減を促したいという意向があるのです。

 こうした根深い対立点は、大臣や首脳レベルによるCOP24ハイレベル会合で交渉し、政治的に合意を図るしかありません。そのためには、選択肢をなるべく整理した交渉テキストを作ることが必要で、結果としていくつかの項目で選択肢が見えるところまで来ました。

 各国はバンコク会合で真剣にルール作りに取り組んだと言えるでしょう。パリ協定成立に尽力したトップ交渉官が率いる米国政府代表団も、ルール作りの交渉に積極的に取り組んでいました。

 ◆COP24までの今後の見通し

 10月下旬には、ポーランドで閣僚級の非公式準備会合(プレCOP)が予定されています。バンコク会合の交渉をベースにした新テキスト案を、議長団たちがそれまでに作成することになっており、プレCOPで各国がこれを検討することになります。

 ルールを決定するCOP24までには、プレCOPのほか、9月に米サンフランシスコで自治体、企業、投資家、市民団体などの非国家アクターによるグローバル気候行動サミット(GCAS)、10月には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃特別報告書」発表など、ルール作りの機運を盛り上げるイベントが目白押しです。実効力のあるパリ協定の実施を目指し、世界は進んでいくことになります。

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【プロフィル】小西雅子

 昭和女子大学特命教授。法政大博士(公共政策学)、ハーバード大修士。民放を経て、2005年から温暖化とエネルギー政策提言に従事。