【水と共生(とも)に】甲子園、金足農の活躍と水道配水量

九回、無死満塁の好機にスクイズで二塁から一気に生還する金足農の走者。上は近江の捕手=8月18日、甲子園球場
九回、無死満塁の好機にスクイズで二塁から一気に生還する金足農の走者。上は近江の捕手=8月18日、甲子園球場【拡大】

  • 仁井田浄水場(秋田市)の設備

 今年の夏の甲子園は吉田輝星投手を擁する金足農(秋田)の大活躍で大いに盛り上がった。決勝でドラフト候補選手が多くいる大阪桐蔭(大阪)に敗れはしたものの、強豪校を次々と倒しての県立高の大躍進は、見る者をとりこにした。今回は、金足農の活躍と地元・秋田市(給水人口約30万人)の水道配水量の変化を検証してみる。水需要の観点から夏の甲子園を楽しんでいただけたらと思う。

 ◆準々決勝 金足農VS近江

 8月18日に行われた準々決勝では、金足農が九回裏に2ランスクイズを決め、近江(滋賀)にサヨナラ勝ちした。その日の秋田市内の水道配水量(水需要)の推移を調べてみた。

 通常は、夕方の夕食準備に向けて水道水の需要が増え、それに伴って浄水場からの配水量も増えるのが一般的である。ところが、秋田市では準々決勝の試合の最中はテレビにくぎ付けになっていたようで、水需要はほぼ横ばいだった。五回終了時のグランド整備の合間にトイレに立った人が多くいたのか、その時間帯に配水量が一時増加している。

 金足農は九回にサヨナラ勝ちしたが、この時間帯の配水量は驚くほど落ち込んでいる。かなりの秋田市民がテレビの前で試合に見入っていたと思われる。そして、試合終了からしばらくして一斉に夕飯の準備に取りかかったのか、配水量は一気に跳ね上がっていく。

 試合終了時の配水量は毎時3000立方メートルだったが、30分後には2倍以上の6500立方メートルに激増した。

 ◆決勝 強豪・大阪桐蔭と対戦

 決勝は8月21日。その日の秋田市内の水道配水量の推移も調べてみた。待ちに待った決勝戦、地元・秋田市では試合前にトイレを済まそうとした人が多くいたのか、試合開始1時間前から水需要が増加し、一時毎時4500立方メートルを超えた。

 試合開始後は、四回終了時点で1対6と大阪桐蔭にリードされると、瞬間的に水需要が増えた。さらに五回終了時点で1対12と点差が開くと、水需要が再び急増する。金足農が七回表に反撃し、1点を追加すると、水需要が一転して急減したが、すぐその裏に大阪桐蔭が1点を加えると、水需要は上昇していった。つまり、点差が開くとテレビを離れて水を使うようになり、反撃に転じるとテレビに戻ってきて水需要は減るという感じだった。

 優勝は逃したものの選手の健闘を祝福したいという思いが強かったのか、試合後の閉会式になると水需要は減っていった。そして、閉会式を見届けたあと夕食の支度を始めたのか、水需要は毎時4000立方メートルから6300立方メートルに急増した。

 秋田市の水需要の73%は生活用水であり、市民の生活行動が水需要に大きく影響する。水は社会生活を映し出す鏡といえる。

 その秋田市の水施設は今、大変な課題に直面している。

 ◆秋田市の水道事業の現状

 秋田市の仁井田(にいだ)浄水場は、市内の水道水の8割を供給する主力浄水場である。浄水能力は15万4600立方メートル/日。1957年に稼働を始め、その後、修繕や部分更新を行ってきたが、老朽化が進んでいる。老朽化に加えて、全国の水道施設と同様、耐震性能の不足、地球温暖化による水道原水の水質変化(流量、高濁度)への対応不足、危機管理能力の不足(浸水対策、停電対策など)にも直面している。

 これに対応するため、2017年3月に「秋田市上下水道事業基本計画」を策定。水道施設の更新では(1)安全な水を安定的に供給できる浄水場の更新(2)災害などに強い浄水場(3)環境と人にやさしい浄水場-を主要テーマに、有識者からなる「仁井田浄水場更新に係る検討委員会」がこれまでに6回にわたり検討会を開催している。施設更新の考え方はホームページで公開している。

 ◆浄水場更新事業計画の概要

 同浄水場は全面更新し、浄水能力は1日当たり6万5000立方メートル程度、急速濾過(ろか)方式とし、各種コスト(概算)を試算している。

 建設費などのイニシャルコストだけでも約190億円で、秋田市の財政規模からして大きな負担になる。当然、官民連携による発注形式を導入するかどうかを検討することになろう。

 今年6月に改正PFI法(民間資金などの活用による公共施設などの整備などの促進に関する法律)が公布され、多くの自治体がその採用を検討している。給水人口約30万人の秋田市の動きは、全国中核都市の水道事業のモデルとして注目されている。

                  ◇

【プロフィル】吉村和就

 よしむら・かずなり グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境アドバイザー。1972年荏原インフィルコ入社。荏原製作所本社経営企画部長、国連ニューヨーク本部の環境審議官などを経て、2005年グローバルウォータ・ジャパン設立。現在、国連テクニカルアドバイザー、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員、自民党「水戦略特命委員会」顧問などを務める。著書に『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』(角川書店)、『日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む』(技術評論社)、『水に流せない水の話』(角川文庫)など。