【視点】中国のゲノム編集技術 人への応用に多くの問題 (1/2ページ)

 □総合研究大学院大学学長・長谷川眞理子

 昨年11月、香港で開かれていたゲノム編集に関する国際会議において、中国の科学者が「クリスパー・キャス9」という技術を用いてゲノム編集した双子が生まれたと発表した。このニュースで世界は騒然としている。

 生物の遺伝子を人工的に改変する技術は、何十年も前から開発されてきた。が、これまでの技術はそれほど正確ではなかったので、ある特定の遺伝子に特定の改変を加えることは難しかった。それを可能にしたのが、クリスパー・キャス9という技術である。詳細は省くが、この新技術は、これまでのものよりもずっと正確に、そして簡便に、遺伝子を編集することを可能にした。最初にこの技術が発表されたのは2012年だった。

 ところが、早くも14年、中国は、この技術を用いて遺伝子改変したサルをつくったと発表した。そして、15年には、人の受精卵にこの技術を応用した研究が中国でなされたのである。それは、体外受精でできた受精卵のうち、子宮に戻されずに捨てられる受精卵を使った研究であった。

 このように、中国はここ数年にわたり、ゲノム編集の研究を、世界に先駆けて進めてきた。今回の、ゲノム編集による双子の「誕生」には問題点がいくつもある。情報を総合すると、確かにできた可能性は高そうだが、詳細が発表されていないので、真偽が科学的に確かめられていないことが1つ。2つ目は、受精卵にゲノム編集を施し、それが本当に子供となって生まれてしまったとされることだ。これまでより正確とはいえ、この技術はまだ新しく、完璧ではない。また、1つの遺伝子を改変して、その点に関しては「よい」方向にいったとしても、その影響が他の遺伝子にどのように出るのかはわからない。私たちには、まだ、ゲノムの全貌に関する知識が不足している。子供となって生まれてしまったとなると、その子が成長し子供をつくる可能性がある。そうすると人工的に改変された遺伝子が、将来に引き継がれてゆくことになる。そのことの是非は誰にもわからない。

 3つ目の問題は、このゲノム編集の人体実験を、親が承諾したとされる背景である。今回は、実際に双子が生まれたと発表されたが、発表者によると、同じようなゲノム編集の子を妊娠している女性がまだほかにもいるらしい。

 彼らは、父親がエイズウイルス(HIV)に感染していて、感染していない女性との間で子供を持ち、かつ、子供はHIVに感染しないようにしたいという願望を持って、この研究に参加したらしい。実際、受精卵の中で改変した遺伝子は、HIVの感染防止に関わる部位であった。

中国の参加者はこんな実験を承諾したのか?