【終活の経済学】「おひとりさま」の安心終活術(1)実録! 天国と地獄


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  • 巣鴨地蔵通りを歩く高齢者。今後日本は単身世帯だけが増えていく=東京都豊島区(ブルームバーグ)

 ■心残りないよう先々の対策を

 一人暮らしの世帯は2018年35%に及び、40年には4割近くになるといわれている。結婚せずに単身生活を続ける人も多いし、たとえいまは家族と暮らしていても、死別や離別によって将来「おひとりさま」になる可能性は抱えている。ならば、誰もがおひとりさまとしての終活を考える必要もあるだろう。周囲に家族がいる場合とそうでない場合。人生の今後を備えることにどんな違いがあるのか。効果的な対策を探りながら追っていきたい。

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 「おひとりさま」は結婚していない人ばかりではない。どんなに仲の良い夫婦でも、死別によって残された配偶者は必ず「おひとりさま」になる。1人で最期を迎えなければならない人こそ、さまざまな準備が必要だ。死を避けることはできない、という事実をいかに受け入れ、準備をするか。その「覚悟」の違いで、旅立ちは大きく変わる。

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 ■70代独身 突然のがん宣告

 静岡県で一人暮らしを続ける70代の石野君枝さんは、背中の痛みが気になって病院に行ったところ、最終的に末期がんと診断された。あまりのショックで、しばらく何も手につかなくなった。しかし、動けるうちに身辺整理をしておかなければと決意し、治療を受けながら精力的にさまざまな終活に取り組み始めた。

 石野さんはずっと独身で、相続人は2歳上の兄だけとなる。しかし、兄との信頼関係はとうの昔に壊れており、二度と連絡を取りたくない。

 そこでまず、亡くなった後、自分ではできない葬儀や法的な手続きをしたり、住まいや遺品の整理をしたりと、さまざまな事務を代行してもらう手続きを済ませた。

 兄には遺産相続もしてもらいたくない。そこで葬儀や整理を行った後に、さらに財産が残るようであれば、ある団体の活動に役立ててもらおうと、死後に寄付できるよう手配した。

 自分のことに関しては、あらゆる準備を整えた石野さんだったが、別の気がかりが一つ残っていた。両親が残したお墓はどうしたものか…。

 それぞれ別の寺院にあり、これまでお墓を守ってきた石野さんがいなくなると無縁墓になってしまう。永代供養墓に改葬しようと、それぞれの寺院に問い合わせたところ、一つは兄の名義になっていて手が出せないと分かった。もう一つは「改葬するなら“離檀料”を」と法外な料金を要求された。

 病気が進行しており、兄と連絡を取るのも寺院と戦うのも、もはや気力と体力が持たない。仕方なく両親のお墓の問題は手つかずのままになっている。石野さんは「いまもお墓のことを思うと、罪悪感で押しつぶされそうです」とこぼした。

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 ■妻と死別 体調悪化気づかず

 6年前に最愛の妻と死別した都内在住の会社員、尾口幸平さん(60)は妻の納骨が済んでから仕事に明け暮れる生活を続けていた。始発に近い電車で出勤し、終電近くまで働く毎日。会社に強要されたわけではなく、仕事に集中しているほうが気持ちが紛れるからだという。自ら望んで休日出勤にも手を挙げた。子供はおらず、唯一の趣味は妻が好きだった絵画の鑑賞。たまの休みに、行きつけのサロンで談笑すると心が安らいだ。

 ある日、そのサロンのオーナーに「ひどく汗をかいているよ。どこか悪いのでは?」と指摘された。強く勧められて病院に行くと、自律神経失調症と診断された。死別の悲しさのあまり、自分では気づかないまま長らく自暴自棄の状態になっていたらしい。専門的には「セルフネグレクト」といわれる。もう少し遅ければ心筋梗塞などの深刻な症状に襲われる可能性があったという。医師の真剣な警告が胸に刺さった。それからは悲嘆と少しずつ向き合うようにし、仕事をセーブしたぶんをサロンに通うなど、心のケアを続けている。地域社会とも積極的に関わるようになった。

 病気や事故、災害などで突然配偶者に先立たれ、ショックからなかなか立ち直れないうえに、健康を気遣ってくれる人もいない。尾口さんの場合は周囲のアドバイスのおかげで難を逃れたが、気づかずに手遅れになるケースは少なくないという。

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 ■ごみ屋敷、大家にしわ寄せ

 誰にも看取られずに旅立つ「孤独死」は、亡くなった人にとってさびしいもの。しかも、周囲に迷惑をかけてしまう可能性も高い。

 東京都内でアパート経営をしている50代の湊聡子さんは、夏の終わりに一室から異臭がすることに気づいた。たしか、40代の女性が一人暮らししている部屋だ。

 最悪のケースを想定して扉を開けると、ごみの山の奥からひどいニオイが漂ってくる。案の定、女性は孤独死していた。

 さらに、猫とみられる死骸が10匹近く見つかったのは予想外だった。相当大がかりな改築をしないと賃貸にできる状態にならないことは経験則で分かった。

 契約書類から実家の電話番号をたどると、亡くなった女性の姉という人物と連絡が取れた。最初は妹の訃報を静かに聞いていたが、遺品整理と部屋の状態復帰に150万円近くかかることを伝えるとにわかに怒りだした。「なんで生前から迷惑をかけられ続けた妹の世話を、連絡が途絶えて10年近く経ったいまもしなければならないのか」とまくし立てられた。最後は裁判も辞さないと言われ、仕方なく湊さんが折れることに。

 遺品整理も改築も、すべて自己負担を余儀なくされた。

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 ■日常的に地域とつながりを

 □「孤独死大国」著者 菅野久美子さんに聞く

 「おひとりさま」にとって、とりわけ不安なのは孤独死だろう。『孤独死大国』(双葉社)を出版し、現在も孤独死の現場を精力的に取材する菅野久美子さんは「一人暮らしの高齢者だけが危ないのではありません。若い世代であっても、地域、会社、友人、さまざまな縁から切り離されると孤独死の予備軍となります。今後日本では1000万人規模で孤独死が発生する可能性があります」と指摘する。

 菅野さんは、取材の過程で、孤独死が起こりにくい地域には特色があることに気づいたという。「やはり地域コミュニティーがしっかりしているところは孤独死が少ない。それは頻繁にお祭りをしているとか、サークル活動が盛んというようなことではなくて、むしろ日常的な取り組みを地道に続けられている地域であることが大切です」

 その好例として、大分県内には、朝起きたら自宅の前に旗を立て、夜になったら旗を下げるというルールを設けている自治体があるという。そうした日常的な習慣が根づくには、住民一人一人が小さな面倒を引き受ける必要がある。

 また菅野さんは「助けられることを受け入れることも重要です」と強調する。「まずは人助けから地域に入っていくといいでしょう。その先に自分が助けられることも考えられるようになったら」と話している。(『終活読本ソナエ』2018年秋号から、随時掲載)