【Science View】ジルコニウム奇数同位体の特異的イオン化法を開発

小林徹氏
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  • 渡部喬光

 ■ジルコニウム奇数同位体の特異的イオン化法を開発

 □理化学研究所光量子工学研究センター アト秒科学研究チーム 専任研究員・小林徹

 原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した際に発生する「高レベル放射性廃棄物」には、核分裂生成物としてジルコニウム(Zr)やパラジウム(Pd)などの有用元素が含まれている。このうちジルコニウムには、半減期の長い放射性同位体の93Zrと5種類の安定同位体(90Zr、91Zr、92Zr、94Zr、96Zr)が存在するため、ジルコニウムを資源化するには、93Zrを分離除去する必要がある。しかし、従来提案されている電子状態ではイオン化効率が低いという課題があり、それがジルコニウムへの「レーザー偶奇分離法」応用の障壁となっていた。レーザー偶奇分離法は、照射するレーザーの偏光を制御することで、核スピンを持たない偶数質量数の同位体と核スピンを持つ奇数質量数の同位体を分離する方法である。

 今回、理研の研究チームは、ジルコニウムに対してレーザー偶奇分離法を適用し、ジルコニウムの高効率イオン化の実現を目標に、広範なエネルギー領域にわたる分光探査を行った。その結果、従来提案されていた電子状態に比べて、奇数質量数の同位体(91Zr)のイオン化効率を約30倍増大させる光吸収強度の大きな電子状態を発見した。

 本研究成果は、既に進展が報告されているパラジウムのレーザー偶奇分離と合わせて、放射性廃棄物の減量・資源化の実現に向けたレーザー偶奇分離技術を大きく前進させるものと期待できる(ImPACTによる成果)。

【プロフィル】小林徹

 こばやし・とおる 1989年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士。分子科学研究所文部技官を経て、91年10月から理研に在職。98年から東京農工大学非常勤講師を兼務。

 ■コメント=大学院生時代から、分光法を基礎とした研究をずっと続けることが出来て幸運だと思います。

 ■自閉症の局所的な神経情報処理特性

 □理化学研究所脳神経科学研究センター 高次認知機能動態研究チーム 副チームリーダー・渡部喬光

 自閉症スペクトラム(ASD)は、コミュニケーションの困難さやこだわりの強さなどを特徴とする発達障がいの一つである。これらASDの症状と脳内の情報処理に関わる神経ダイナミクスの関係について、これまで脳全体では研究されていたが、局所的な脳領域ではほとんど調べられていなかった。

 今回、理研を中心とする国際共同研究チームは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、ある神経領域が神経情報入力をどの程度の時間保持し、処理・統合できるかを示す指標となる「神経活動の時間スケール」を、ヒトの脳全体にわたって調べた。その結果、高機能ASD成人当事者(言語機能に困難がなく、知能も平均もしくはそれ以上のグループ)の神経時間スケールは、一次体性感覚野や視覚野では定型発達者よりも短く、尾状核では長いことを発見した。これにより、感覚関連領域では入力情報に対して敏感である一方、認知機能と関係する尾状核では安定した(ときに安定しすぎた)情報統合が行われていると推測される。さらに、この非定型的な神経時間スケールの傾向は、16歳以下の小児発達段階でも一貫していること、症状の重症度および解剖学的非定型性とも関係していることを明らかにした。

 本研究成果は、ASDの多様な症状の統一的理解の発展に貢献し、将来的にはASDの早期診断・早期介入の手がかりになると期待できる。

【プロフィル】渡部喬光

 わたなべ・たかみつ 東京大学医学部卒。同大学医学部附属病院での臨床研修後、同大学大学院医学系研究科修了(医学博士)。ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンでの5年弱の研究活動を経て2018年4月から現職。

 ■コメント=神経活動の集団的ダイナミクスを通して、ヒト脳の高次機能について調べています。

 ■4月に理研の2地区で一般公開を開催

 理化学研究所は和光地区(埼玉県和光市)、播磨地区(兵庫県佐用郡)で、4月に研究施設や研究室を一般に公開する。科学技術や研究所運営に関し、広く一般国民の関心と理解を深めてもらうのが狙い。一般公開日には講演会、体験イベントなども開催する。

 和光地区では、一般向けの「特別講演会」で理研が国際周期表年(IYPT2019)に協賛していることからそれにちなんだ講演を行う。また、中高生を対象にした「サイエンスレクチャー」、やさしい英語による「Science Cafe in English」も予定。播磨地区では大型放射光施設「SPring-8」、X線自由電子レーザー施設「SACLA」を見学できるほか、科学講演会やさまざまな体験イベントを開催する予定。どちらも入場無料。

 〈和光地区〉

 場所 〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1

 日時 4月20日(土)9:30~16:30(入場は16:00まで)

 問い合わせ 和光地区一般公開事務局

       電話048・467・9443

       詳細はhttp://openday.riken.jp/へ

 〈播磨地区〉

 場所 〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

 日時 4月27日(土)9:30~16:30(入場は15:30まで)

 問い合わせ SPring-8/SACLA施設公開実行委員会事務局

       電話0791・58・0808

       詳細はhttp://rsc.riken.jp/openhouse2019/へ