“休眠”宗教法人増加、売買ブローカーも暗躍 脱税の温床に「特効薬」なし

2013.6.2 22:28

 毎年、国などへの報告書類の提出が義務づけられているにもかかわらず、提出しない宗教法人が増加している。多くが休眠法人とみられるが、実態調査や整理・統合は進んでいない。税制面で優遇される宗教法人が脱税の隠れみのとして悪用される例も後を絶たず、売買を仲介するブローカーも暗躍。国税当局も監視を強めている。

代表権購入で「寄付」

 「建物なし、信者なし」「譲渡価格は応相談」…。

 インターネットのサイトでは多くの宗教法人が「売り」に出されている。

 あるブローカーによると、代表権のみの売買は最低で数百万円。宗教法人の設立は審査が厳しいため「作るより買う方が手っ取り早い」と考える人が多いという。販売先のその後の利用方法は「知ったこっちゃない」と気色ばんだ。別の業者関係者は「売買が法に抵触する可能性があることは知っているが、企業からの需要は多い。こちらもいくばくかの仲介料はもらっている」などと話した。

 そんな「売られた」宗教法人が悪用された事件が、摘発された。

 「手をかざして気を送るだけで病気が治る」とのうたい文句で、各地でセミナーを開いていた福岡県の企画会社「アースハート」前社長らが3月、法人税法違反罪で福岡地検に追起訴された。舞台装置として使われたのが、静岡県内の宗教法人だった。

 前社長らは平成18年、休眠状態だったこの宗教法人の代表権を購入。前社長らはセミナー受講料を「寄付金」として、宗教法人の口座に振り込ませるようになったという。3年間に会員から集めたセミナー開催による所得約27億円を隠し、脱税総額は約8億円に上った。

 同種の事件は過去にもある。昨年7月には買い取った宗教法人の口座を使い、約17億円を脱税した不動産会社元社長に対し、東京地裁が法人税法違反罪で懲役2年8月の実刑判決を言い渡している。

「実態は分からない」

 脱税の温床となりやすい宗教法人だが、「売買」の対象となる休眠状態とみられる宗教法人数は増えているのが実情だ。

 オウム真理教(アレフに改称)による地下鉄サリン事件後の法改正で、宗教法人は国や都道府県に対し、財産目録や役員名簿を毎年、提出することが義務づけられた。しかし、文化庁によると、報告がない宗教法人は23年末で約1万6千に上り、7千前後だった11~14年から倍増。23年こそ減少したものの、16年以降は1万以上で推移している。

 文化庁はこうした宗教法人を整理するよう、都道府県に指導している。都道府県が実態調査を行い「不活動宗教法人」と認定すれば、他法人との合併や自主解散督促、裁判所への解散請求などを行うことができるためだ。

 それでも一向に解消されない背景には、自治体の人員不足がある。数千の宗教法人に対して担当者が数人のみの自治体も多く、文化庁が年間約300万円の調査費用を補助する事業も利用が進んでいない。休眠宗教法人について、文化庁担当者は「後継者不足で代表者が死亡したまま事務手続きが行われないケースが多いとみられるが、詳しい実態は分からない」と話す。

 ある国税当局OBは「休眠宗教法人は山ほどあるうえ、売買そのものを取り締まる法律もない。休眠になった時点で一般法人と同様の課税方法を取るなど抜本的な制度改正でもしない限り、休眠宗教法人の悪用を根絶することは不可能ではないか」と指摘している。

 ・宗教法人 国か都道府県の認証を受けた宗教団体。税法上は公益法人に属す。法人税の課税対象となるのは、駐車場や飲食業経営など34事業に限定される。寄付金やお布施、お守り販売といった宗教に関する事業、幼稚園の経営などによる収入は非課税となる。収益事業の法人税率も19%と、一般法人(25・5%)と比べて優遇されている。

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