東京五輪の「その先」を見つめる建築界 超高齢化社会の財産に

2013.12.29 12:21

 2020年東京オリンピック・パラリンピック決定のニュース(日本時間9月8日)は建築界、デザイン界でも明るい話題として、前向きに受け止められた。

 反応も早かった。10月には日本デザイン振興会など関連団体による「2020東京大会のデザインを考えるプラットフォーム」を緩やかに設置。世代や領域を超えてデザイナー20人が五輪への決意や提言を行う公開スピーチも行われた。

 そこでは7年後の五輪というよりも「その先」を見据えた提言が目立った。グラフィックデザイナーの福島治(55)はこう語りかけた。「すべての交通機関をバリアフリーにしましょう。大会後は超高齢化社会が進む都民の大切な財産になるはずです」。デザインは本質的に常に前向き、善であることを要求する。デザイナーとは現状ある問題を克服し、望ましい方向へ進むよう力を尽くす仕事なのだろう。

 が、ここにきて都知事の辞任もあり準備は停滞。デザイン界も実際に動き始めるのは来年になりそうだ。

 将来への見通しがあいまいだったために物議を醸したのが、東京・神宮外苑に建設予定の五輪のメーン会場、新国立競技場。建築界の重鎮、槇文彦(85)らが「巨大過ぎる」と建設案に疑義を呈し、議論を呼び起こした。景観や安全への懸念だけでなく、五輪後の維持管理や収支に対する見通しの甘さが指摘された。結果、事業主体である日本スポーツ振興センターの有識者会議は延べ床面積の約2割縮小などを決定。イラク出身の建築家、ザハ・ハディド(63)の斬新なデザインはおおむね維持、開閉式屋根も計画通り残しつつ、費用縮減に努めるとした。

 槇らの問題提起は、公共建築に対し住民が関心を寄せる大切さに気付かせてくれた。その一方、「東日本大震災からの復興」を世界にアピールするための東京五輪は、皮肉にも、被災地の復興を遅らせる原因となるかもしれない。五輪関連施設の建設をにらみ、既に建築資材や人件費は高騰。五輪と被災地復興をどう両立させるのか、官民で知恵を絞るしかない。

 建築展で最も印象に残ったのは、やはり世界中の被災地で仕事をしてきた建築家、坂(ばん)茂(56)の大型個展(3~5月、水戸芸術館現代美術ギャラリー)。得意の「紙の構造」をはじめ、現物や原寸に近い模型を並べた展示は迫力満点だった。

 未来は過去を土台に築かれる。日本の近現代建築の資料(図面や模型など)を収集・保存するため、東京・湯島に5月、「国立近現代建築資料館」がオープンした。開館記念展のテーマは1964年の東京五輪だった。

 先の五輪で標識などを担当した栄久庵(えくあん)憲司(84)と、彼が率いるデザイン集団「GK」の歩みを振り返る企画展(7~9月、世田谷美術館)も開かれた。そして、五輪式典の設備を担当した渡辺力(りき)が1月、101歳で死去。日本の工業デザインのパイオニアだった。=敬称略(黒沢綾子)

閉じる