ホーキング博士が訴える“地球危機説” AIと宇宙人が人類を滅ぼす?!

2016.2.14 17:05

【エンタメよもやま話】

 さて、今週ご紹介するエンターテインメントは宇宙SF&自然科学&環境問題絡みのお話でございます。

 英のスティーブン・ホーキング博士(74)といえば、宇宙の始まりから終わりまでを難しい数式などを使わず、できるだけ平易に説明しようとした世界的大ベストセラー「ホーキング、宇宙を語る」(1988年)で知られる車いすの天才宇宙物理学者ですが、そんな彼が一昨年から年初にかけ、公の場で“地球滅亡論”とでも言うべき物騒な発言を続けているのです。例えば同じことを記者が言えば「病院行って診てもらえ」で話は終わるのですが、“世界の頭脳”ともいうべきホーキング博士となれば話は全く違ってきます。というわけで今回はこのお話について、いろいろ考えてみたいと思います。

 そもそもの発端は2014年の英BBC放送とのインタビューでした。

 博士はこの年の12月2日、BBCとのインタビューで、開発競争が各国で過熱する人工知能(AI)について「これまでに開発された原始的なAIは人類にとって非常に有用である」と評価する一方「ゆっくりとした生物学的な進化しか遂げられない人類は、(AIと)競争することはできず、取って代わられるだろう」と指摘。

 さらに「完全なるAIの開発は、人類の終焉(しゅうえん)をもたらすかもしれない」と警告し、AIが人類滅亡の引き金となるとの考えを示したのです。

 この衝撃的な爆弾発言は欧米の主要メディアによって一斉に報じられ、世界中に物議を醸しました。ちょうどこの発言の約1カ月前、米国の電気自動車(EV)メーカー「テスラモーターズ」や宇宙開発企業「スペースX」を率いるイーロン・マスク氏(44)も米科学サイト「エッジ」に同様の警告を投稿しましたが、あまりの反響に数時間後、自ら投稿を削除し、話題となったこともあり、AIの危険性が一気に世界に広まりました。

 そして昨年10月1日付英紙デーリー・メール(電子版)などによると、ホーキング博士は昨年9月25日付のスペイン紙「エル・パイス」(電子版)とのインタビューで「高度な文明を持ち(宇宙を徘徊=はいかい=する)遊牧民のようなエイリアン(地球外生命体)が地球に来た場合、コロンブスの米大陸上陸時のように、先住民族のことをよく知らないために起きた結果(大虐殺)が起こる」と述べ、地球外生命体が地球に攻めてきて、人類を滅ぼす可能性を示唆しました。

 「宇宙人が地球を滅ぼす」というこの発言は、前回の“AI発言”を超えるブッ飛び発言とあって、全世界にさらなる驚きを与えました。

 そして今年の1月19日、英BBC放送主催の毎年恒例のラジオ講義「リース・レクチャー」で「われわれはいま、核兵器や地球温暖化、遺伝子操作されたウイルスといった数々の脅威に直面しており、これらが招く人為的な災害が1000年~1万年後に起きることはほぼ確実だ」とまたもや驚きの持論を展開。

 さらに「これらの脅威は科学技術の進歩が作り出したものだが、科学技術の進歩は止められないため、われわれはこうした脅威や科学技術の持つ危険性を認識しつつ、管理下に置かなければならない」と指摘。

 「こうした人為的な災害が起きるまでに、われわれは宇宙の他の惑星に(居住地を)拡大せねばならない」と訴え「宇宙にわれわれが住むためのコロニー(入植地)を建設するには最低100年はかかるため、われわれは(入植地が作れない)この期間、特に(数々の脅威に)注意せねばならない」と警告したのです。

 もはやこうなると「博士、ヤバいんちゃうか!!」との声が出てもおかしくないレベルです。実際、博士のこの発言を報じる1月19日付英紙ガーディアン(電子版)の記事に対する読者の感想欄には「ホーキングは間違えている。科学技術が持つ危険性回避のため宇宙にコロニーを作ることが唯一の生きる道だなんて馬鹿げている」「科学技術ではなく、それを使う人間の問題だ」といった反対意見と、「博士は正しい。核兵器は人類にとって未だ想像を絶する危険なものだ」「博士は間違っていない。人間はこの地球上で最も破壊的で危険な種だからだ」といった賛成意見が対立。

 しかし中には「地球と人類が破滅すれば、数万年後、神によって再び原始人が登場し、新たな時代を築くだろう。歴史は繰り返すのだ」といった諦(てい)観(かん)にも似た意見もあり、博士の発言に対する注目度の高さを裏付けました。 

 とはいえ、最近の地球をめぐる状況をつぶさに見ると、一見、突飛に感じる博士の警告もあながち“SF”のひと言で片付けるわけにはいかないと思ってしまうのです。

 例えば今年1月16日付の英紙ガーディアンやデーリー・メール(いずれも電子版)などによると、世界の大都市の大気汚染はいまや危機的な状況に達しており、世界の2000都市では2014年以降、毎年330万人もの人々が大気汚染が原因のさまざまな疾患で命を落としているというのです。

 これは世界保健機関(WHO)がまとめた研究結果で明らかになったのですが、それによると、330万人のうち、4分の3は大気汚染が理由とみられる脳梗塞か心臓病で亡くなっており、大気汚染関連の死者数世界一は中国で年間約140万人。2位がインドで年間約64万5000人。3位がパキスタンで約11万人だといいます。

 こうした傾向は他国の大都市でも顕著になっており、例えば英でも毎年約2万9000人が大気汚染が原因で亡くなり、うち数千人はディーゼル車が排出する二酸化窒素ガスを長期間にわたって吸い続けることにより命を落としていると指摘されています。

 WHOの公衆衛生部門のトップ、マリア・ネイラ氏は前述のガーディアン紙などに「(世界の)多くの都市は大気汚染によって公衆衛生上の緊急事態を迎えています。それは目を見張るほどの事態で、未来の社会が負担すべき恐ろしいコストとともに、世界が直面する最大の問題です」と警告しました。

 深刻な大気汚染といえば中国・北京の話だけかと思いきや、知らぬ間に実は全世界規模で大変な状況になっているようなのです。

 そして、そんな中国では、恐ろしいことに、ロッキー山脈(カナダ)の新鮮な空気を詰めたボトルが“爆買い”されているというのです…。

 昨年12月15日付の英紙デーリー・テレグラフやデーリー・メール(いずれも電子版)などによると“新鮮空気”の販売元は、14年、カナダのアルバータ州で2人の若手起業家が設立した「バイタリティ・エアー社」です。

 最初は、ほとんど冗談で始めたビジネスでしたが「北米では当たり前の新鮮な空気も(大気汚染が深刻な)中国では貴重なはずだ」と考え、昨年10月から中国でネット販売すると、1本14~30ドル(約1600~約3500円)にもかかわらず、500本があっという間に完売する大ヒットに。

 中国では一般的なミネラルウオーターの50倍も高い100元(約1800円)以上のものも多くあるなど相当高価な商品なのですが、人気は衰えず、大気汚染警報で最悪の「赤色警報」が北京で初めて発令された昨年12月7日以降、人気はさらに高まっています。

 何だか笑うに笑えない話ですが、この“新鮮空気”の発売を始めたバイタリティ・エアー社が自社サイトで表明したこの製品の意義に戦慄を覚えました。

 「ボトル入りの水のことを人々が笑ったことを覚えていますか?。空気はいま、同じ道をたどろうとしているのです…」

 将来、われわれは健康のため、水だけではなく、空気までボトル入りのものを購入するのが当たり前の世の中を生きることになるのでしょうか?。それだけではありません。約2年間にわたり猛威を振るった致死率が極めて高い「エボラ出血熱」が収束したと思ったら、今度は妊婦が感染したら脳の発達に遅れが出る「小頭症」の子どもが生まれる可能性が指摘される恐ろしい「ジカ熱」が世界的に大流行の兆しを見せています。

 ホーキング博士が警告する数々の危機以前に、大気汚染や現代医学でもなかなか太刀打ちできない恐ろしい伝染病が次々登場するような状況では先が思いやられるとともに、博士がさまざまな形で訴える“地球危機説”が俄然(がぜん)、リアリティーを帯びてくるのです…。(岡田敏一)

【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部などを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。

閉じる