なぜ突然…餃子の購入額、堺市が急上昇で全国3位に 宇都宮、浜松に次ぐ理由

2018.7.14 16:10

 餃子で有名なまちといえば、どこを想起するだろう。宇都宮市、浜松市あたりだろうが、実は餃子の平成29年の世帯当たり購入額で、堺市が全国3位だったことが、総務省の家計調査で分かった。宇都宮市と浜松市はともに「餃子のまち」として毎年、購入額の首位の座をめぐって火花を散らしているが、堺市は餃子が取り立てて有名なわけではない。「なぜ突然…」と業界関係者らが首をかしげる一方で、堺市は新たな餃子のまちとして売り込もうと虎視眈々(たんたん)と戦略を練っているが…。(江森梓)

 1世帯あたりの購入額は3092円

 調査は29年1~12月、全国の県庁所在地と政令指定都市の52市で、2人以上の世帯を対象に実施された。餃子に関しては、スーパーや持ち帰り専門店での焼き餃子と、家庭で調理する生餃子が対象で、外食や飲食店でのテークアウト、冷凍食品、餃子の皮については対象外。

 その結果、1世帯あたりの餃子の購入額は、1位が宇都宮市(4259円)、2位が浜松市(3580円)、3位が堺市(3092円)だった。4位は「餃子の王将」の発祥の地である京都市で3041円、5位は餃子専門店がしのぎを削る宮崎市で2854円。いずれも餃子の本場として知られる上位の常連で、前年の17位から突如浮上した堺市の3位が際立って見える。

 これには、餃子による全国のまちおこしを応援する「全国餃子サミット協議会」(浜松市)の大場豊事務局長(50)も「大阪はどちらかと言えば粉モン文化が中心で、餃子はそこまでメジャーじゃなかったはず。理由は見当もつかない」と首をひねる。

 「もしや集計ミスなのでは…」。そんな失礼な疑念がよぎり、堺市の中心地である南海堺東駅前(堺区)で市民にインタビューしてみると、思わぬ反応が返ってきた。

 「週に1度は餃子を買って帰ります」。こう話すのは、堺区の会社員の女性(70)。「肉と野菜がバランスよく食べられて息子に食べさせるのにちょうどいい」という。堺区の無職の女性(85)は「2週間に一度の月曜は『餃子の日』と決めています。焼くだけで簡単なので、用事で出かけたりしたときに重宝します」。中区の主婦、前田弘美さん(50)も月に2~3度餃子を家で食べるといい、「ビールに合うし、おかずにもなるし最高やね」と笑顔。堺市で餃子がよく食べられているというのは、どうやら本当らしい。

 パーティー?鍋?

 次に向かったのが、堺市で有名な餃子の持ち帰り専門店「龍華山(りゅうかざん)」本店(西区)。平成20年にオープンして以降、ここ2年では2店舗を増やし、現在市内で4店舗を展開している。

 特に昨年は売り上げが倍増したといい、代表の毛穴貴祥(けな・たかよし)さん(41)も「不思議に思っていた」と話す。1箱20個入りの餃子を3箱以上で大量購入していくケースが多いといい、「聞いてみたところ、家で『餃子パーティー』を開くというお客さんが多かったんです」という。堺市では、今、餃子パーティーが流行っている。だから、消費量が増えているのではないか。

 一方、別の見方を示す人もいる。竹山修身(おさみ)市長は、家計調査の中でも白菜に注目する。堺市の平成29年の白菜の購入額は京都市、大阪市に次いで3位。27~29年の3年平均では、京都市と大阪市を抑えてトップだった。白菜といえば鍋には欠かせない食材だが、竹山市長は「堺の人は鍋が好きで、鍋に餃子を入れるのがポピュラーで、だから持ち帰りの餃子が売れるのではないか」と推測する。

 餃子の普及を図る一般社団法人「焼き餃子協会」(東京都)の代表理事、小野寺力さん(42)も「もともと関西には、餃子を鍋に入れる文化があり、浜松、宇都宮のツートップを除けば、東日本よりも餃子の消費量は多い傾向にある」と説明する。

 さらに小野寺さんは、ニンニクがたっぷり入った餃子はスタミナ満点の食べ物のため、肉体労働が多いとされる工業地帯でよく食べられていると分析。また、持ち帰り用の生餃子や焼き餃子に対象をしぼった家計調査の集計方法にも着目し、「こうした餃子は近所のスーパーで購入することが多く、都市部の子育て世代の多い地域が有利になりがち」と話す。

 堺市は、湾岸部に堺泉北臨海工業地帯があり、多くの工場が集積。また、平成27年の国勢調査では、一般的に「子育て世代」とされる20~40代が人口に占める割合は37.2%で全国平均(36.5%)をやや上回っている。

 こうして見ると、たしかに堺市に餃子が消費される条件がそろっていると言えなくもない。

 追いつき追い越せ

 理由はいずれにせよ、堺市が餃子の購入額が3位になったことで、注目を集めたことはまちがいない。

 龍華山本店に餃子を買いに訪れた南区の清掃員、中島基光(もとみつ)さん(68)は「堺市が3位になったときいて、餃子が食べたくなって…」と笑う。

 一方、毛穴さんは「これからは積極的に餃子の町として売り込み、ゆくゆくは餃子のツートップに割って入れれば」と鼻息が荒い。竹山市長も「堺に来ておいしい餃子を食べませんかというPRをしていきたい」と意気込み、早くも餃子を通じたPRを検討している。

 ただ、堺市が二強入りするには、高いハードルを越えなければならない。平成29年では3位になったものの、2位の浜松市との差は500円近く空いているのに対し、4位の京都市との差はわずか50円程度。さらに今年の家計調査の速報値をみれば、1月が12位、2月は35位、3月は27位と低迷。4月は浜松市に次いで2位となったが、合計ではまだまだツートップに及ばない。

 小野寺さんは「宇都宮市と浜松市のツートップはいわば雲の上の存在であり、とりあえずは餃子を安定的に消費して3位を守ることを目指すべきでは」とした上で、「市外へのPRも大事だが、まずは市民に餃子が家庭で手軽に食べられるということを訴え続ける必要がある」と話している。

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