【IT風土記】京都発、ICT授業の効果は?初の“見える化”にチャレンジ

 
ICT機器を使った公開授業(京都市立西京高校附属中)※写真は京都市教育委員会提供

 IT機器の普及にともない、電子黒板やタブレット端末を利用した授業が話題を集めている。実態はどうなのか、どんな効果が得られるのか。明らかにしようという試みが始まっている。「京都ICT教育モデル構築プロジェクト」を取材した。(早坂礼子)

 ICT授業の促進を、効果の“見える化”に挑む

 京都大学学術情報メディアセンターの美濃導彦教授はマルチメディア情報の研究で知られる専門家だ。京大のCIO(Chief Information Officer最高情報責任者)も務め、授業内容の自動撮影や遠隔講義など長年教育現場の情報化に取り組んでいる。

 およそ1年半前、日本マイクロソフトに勤める知人がこう言った。「美濃先生、国はこれから小・中学生にタブレット端末を配って授業をしたいらしい。ICT機器を使った授業はどんな効果があるのか、実証研究をしませんか」美濃教授は少し驚いた。「そんなことできるの?」。知人は請け負った。「大丈夫。システムの整備や授業で使う機器はうちが企業連合をつくって支援しますから」

 大学生だけでなく若年層にもICT教育を広げるべきだとは思うがなかなか広がらない。「いまICTを使って授業をやっているのは特定の先生だけ。いろんな先生に使ってもらわなくては裾野が広がらない。それには効果を“見える化”しなくては」と考えていた美濃教授、渡りに船とはこのことだ。さっそく京都市教育委員会に実施を働きかけた。

 京都市教育委員会は早くから教育現場へのICT導入に取り組んでいた。「校内の各所をネットワークで結ぶ校内LANやコンピューター教室などを整備してきました」と学校指導課の関智也課長補佐。そこへ美濃教授の提案だ。「効果を可視化していきたい」という言葉がど真ん中に響いた。教育委員会は「ただ“導入した”“良かったね”ではなく、ICT導入がどんな効果を生むのか検証することは、これからICTを教育現場に広げていくために必要なことだ」と実証研究開始に同意した。

 研究の概要はこうだ。生徒1人に1台、タブレットPCを配布して「デジタル小テスト」の形で宿題を出す。それを生徒が自宅に持ち帰っていつ、どこで、どのように回答するか。勉強するときにどういう手順を経てどこで悩んだか、どれくらい時間を費やしたのかなどを書き込んでもらい、そのデータを集めてサーバーに保管する。そこには学校と自宅での生徒の学びの変化が蓄積されるので、それを分析してICT教育の効果を測る-。

 期間は2015年4月から16年3月まで、研究対象校は美濃教授の知人が学校長を務める京都市立西京高校附属中の3クラス・全119人に決まった。西京高校は明治時代の京都府商業学校を前身とし、市政施行にともない京都市立となった名門で、附属中は中高一貫教育のため生徒の転出入が少ない。データを安定して集められることも決め手になった。

 授業で使うタブレットPCや電子黒板、学習データの分析に関わる機器などを提供し、技術や運用のサポートを行う役割にはNECとNECフィールディングが手を挙げた。日本マイクロソフトは研究を支援する企業のとりまとめにあたったほか、障害に強く、急なアクセス増にも柔軟に対応できるインターネット経由のクラウドサービスなども提供する。京大は学習データの分析手法を開発し、研究成果をまとめる。教育委員会は研究に必要な環境や情報を提供し、研究成果を踏まえて市立学校でのICT活用のあり方を検討する。ちなみに、市の補助金など公的資金は入っておらず、すべて関係者の手弁当だ。

 こうして4者がスクラムを組んだ実証研究「京都ICT教育モデル構築プロジェクト」が動き始めた。昨年6月と12月には教育関係者やマスコミを集めて公開授業も実施し、今年3月下旬には研究成果を発表する段取りだ。ところが、プロジェクトには思わぬ伏兵が潜んでいた。

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