【IT風土記】岐阜発 「君の名は。」の聖地巡礼だけじゃない 消費呼ぶインバウンド戦略

 
風情を感じさせる高山市の「古い町並」。海外からの観光客も多い

 名古屋から特急を使っても2時間以上かかる岐阜県の観光地・飛騨高山は、お世辞にも交通の便が良いとは言えない。しかし、造り酒屋や味噌店が立ち並び、江戸時代の城下町・商家の風情が残る古い町並みには、さまざまな人種の外国人観光客が大勢足を運び、散策を楽しんでいる。アニメ映画「君の名は。」の舞台にも近く、「聖地巡礼」目当ての観光客でも賑わう飛騨高山の集客の原動力となっているのは、地元の官民が手を組んだ地道で巧みなマーケティング戦略だった。

インバウンド数“15年で約10倍”

 高山市が外国人観光客の取り込みに力を入れ始めたのは、1986年に遡る。運輸省(現・国土交通省)が、魅力ある観光地で、受け入れ態勢も整備されている地区のひとつとして高山市を「国際観光モデル地区」に指定したことを受け、同市は「国際観光都市」を宣言した。その後も、政府が仕掛けるビジット・ジャパンなどの観光支援事業の機会をとらえ、海外に対するプロモーションを積極的に展開した。

 「高山の観光プロモーションの強みは、官民の連携が密であることだ。旅行博にも同行し、その場で具体的な提案や対応ができる機動力がある」。高山市ブランド・海外戦略部海外戦略課の葛井孝弘主査は、こう胸を張る。2005年に市町村合併があったため、単純比較はできないが、高山へのインバウンド(訪日外国人客)の数は、2000年の約3万7000人から2015年の約36万4000人へと飛躍的に増えている。

 「高山は小さな京都と呼ばれている」と葛井氏はいう。城下町の中心、商人町として発展した古い町並みは、観光客にとって高山の一番人気だ。しかし、高山市の海外向けのパンフレットは、小京都の街並みだけを前面に押し出すのではなく、大迫力の雪壁で知られる北アルプスの立山黒部アルペンルートや、世界文化遺産に登録されている白川郷など、日本が世界に誇る周辺の観光資源をアピールしながら、その宿泊拠点として便利な高山市を旅程に組み込むように促すことも多い。

 「東京や京都のようなブランド力はなく、自然の魅力だけで勝負しても、人気では北海道にかなわない」。高山市はこうした危機感をバネに海外プロモーションに力を入れてきた。東京と大阪を結ぶ観光のゴールデンルートの中間点に位置している好立地を生かし、ルートの途中で立ち寄ってもらうためには、高山市内の観光資源では力不足で、周辺地域との連携は欠かせない。

市外の観光資産をテコに集客

 インバウンド獲得の戦略は間違いなく効果を見せている。欧米を中心とした個人旅行の客の中には、すでに高山を宿泊拠点として、アルペンルートや白川郷などに出かける滞在型の旅行が増えている。いち早く、宿泊施設や観光案内などの受け入れ態勢を整備していた効果が出ているのだ。これまでは、雪で閉ざされた冬の高山を訪れる国内観光客はわずかだったが、今では、その雪を見たさに、東南アジアなどの観光客が集まる。雪化粧した古い町並みにも賑わいが絶える日はない。

 「宿泊施設に関しては、新しい投資も期待できる」と高山市の観光戦略に自信を深める葛井氏だが、課題もある。「観光客を集めるところまではうまくいったが、宿泊や飲食以外にお金を落としてもらうまでにはいっていない」からだ。サイクリングや酒造めぐりなど、体験型ツアーを楽しむ観光客は増えてきたが、モノに関する消費の拡大にはまだ伸びる余地が大きい。「市内に40店舗程度しかない免税店が増えれば、外国人観光客が地場産品や土産などに、もっとお金を使ってくれるのではないか」と葛井氏は考える。

免税店の整備で財布のひもを緩く

 観光立国を掲げる政府も、免税店制度の拡充を進めるなど、地方でのインバウンドの拡大を後押しする。手続き委託型の免税店も認められ、商店街やショッピングセンターなどの特定商業施設内で販売する物品に対する免税手続きを、免税手続きカウンターを設置する事業者に代理することができるようになった。また、免税の対象となる最低購入金額が「1万円超」から「5000円以上」に引き下げられたのに合わせ、消耗品についても最低購入金額が「5000円超」から「5000円以上」に引き下げられた。

 制度改正に伴い、2000円から3000円程度の単価の低い民芸品や伝統工芸品についても、2、3個の購入で免税となる。面倒な手続きを代理してもらえるため、免税店登録へのハードルは低くなった。外国人旅行者向け免税制度に関する協議会の事務局長で、JTBとJCBの共同出資会社であるJ&J事業創造(東京)取締役でもある大本昌宏氏は「日本の免税制度は外国の制度と比べても、観光客にとって手続きが簡単で使いやすい仕組みだ」と評価する。ただ、地方創生に生かすために、地方の販売店での免税対応を増やすには、手続きを代理できる人の手当てが必要になる。

 地方の大型ショッピングモールやアウトレットモールなどでは委託型免税制度の活用は積極的だが、地元の商店街にとっては免税手続きカウンターの設置に二の足を踏むケースが多い。そうした中、高山本町三丁目商店街振興組合が、商店街単独での免税カウンター設置に乗り出した。同商店街振興組合理事長で、ドラッグストアを営む中田中央薬品社長、中田智昭さんはいう。「(免税カウンターの作業は)みんなが思うほど、難しいものではない」。

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