【IT風土記】大分発 営農の見える化を実現、農業再生の道開く原価管理

 
くしふるの大地の重政農場。三角屋根がシンボルの旧農業高校校舎の面影を残している

 農地法の改正に伴い、農業に参入する企業が増え、日本の農業再興へ向けた動きが始動している。ラーメン店「博多一風堂」を展開する株式会社力の源カンパニー(福岡市)が設立した農業生産法人「株式会社くしふるの大地」が大分県で取り組んでいる営農改革もそのひとつだ。高齢化や新規就業者の不足により、担い手の減少が深刻な問題となる中、若者たちが夢を託せる職業に農業を進化させることが大切だ。大分県で始まった営農改革は、カンと経験に頼ってきた農業に、生産性の向上やカイゼンなどの経営感覚を取り入れることを目指し、着実に成果を実らせ始めている。

 地域との交流の場としても活用される農場

 大分県豊後大野市の旧三重農業高校跡地も活用し、2015年に整備された重政農場に足を運ぶと、青々としたキャベツ畑が目に飛び込んでくる。くしふるの大地が、2009年に開拓した大分県竹田市の久住農場のノウハウを導入し、キャベツのほか、ハクサイやニンジンなどさまざまな野菜を栽培している。

 三角屋根がシンボルの旧校舎の面影を残した事務所棟では、「子ども食堂」が月2回開かれる。家庭の事情で十分な食事を取ることが難しい子どもたちを招待し、農場でとれたての新鮮野菜を中心に調理した食事が提供されている。また、農業経営者らが経営課題を持ち寄って勉強会を開き、生きた情報を交換するなど、「食」をテーマとした地域の交流の場としても活用されている。

 「企業の農業参入は全国で増えているが、地元との交流を積極的に行い、地域に溶け込んでいる企業は少ない」。地元選出の大分県議会議員、玉田輝義氏はこう話す。1月下旬に広瀬勝貞大分県知事が視察に訪れた際も、地域住民と農業生産法人の交流が、農業を核とした活性化につながることに期待を寄せていたという。

 原価の把握が営農改革の入り口になる

 くしふるの大地が、最初の農業参入の圃場に竹田市を選んだのは標高700メートルの高地にあり、晩と日中の温度格差が発生し、農作物の甘味や実のしまりが良くなるという特徴があったからだ。さらに、通年出荷の体制を確立するため、農地面積の拡大が必要となり、重政農場を整備した。

 くしふるの大地の営農は、作付け計画から栽培管理、出荷・販売に至るすべてのオペレーションを20代~40代のスタッフが手掛けている。各セクションに責任者を置き、計画、実行、評価、改善という「Plan-Do-Check-Act(PDCA)」のステップを繰り返すことで、生産管理や品質管理の業務を継続的に改善することを目指している。

 「ラーメン店を経営してきた経験に照らして、原価管理の考え方をもっと突き詰めれば、農業には大きな可能性があるはずと直感した」。力の源カンパニーの清宮俊之社長はこう話す。農業参入に伴い、関係者にヒアリングした結果、農業素人ながらも外食産業と比べて原価把握のあいまいさが印象に残った。

 いくら経営のノウハウを導入しようとしても、肝心の原価が把握できなければ、すべては絵に描いた餅になる。しかし、逆に考えれば、「原価管理がきっちりできれば、PDCAのサイクルも血の通ったものになり、農業経営が見違えて良くなるはずだ」と清宮社長は考えた。原価管理のシステムを整備することが、くしふるの大地が目指す営農改革の第一歩として浮上した。

 流通側の悩みは、仕入れの作物が把握できないこと

 くしふるの大地が農場で生産した野菜の大口販売先は、福岡県、熊本県、山口県でスーパーマーケットを展開しているHalloDay(ハローデイ)だ。店内や商品のディスプレーに工夫を凝らし、アミューズメントパーク化していることが特長で、客を楽しませる仕掛けが随所に見られるユニークなスーパーとして知られる。

 「アミューズメントフードホール」を掲げるハローデイは、生鮮食品の新鮮さをアピールポイントのひとつにしている。徹底した品質管理に基づく安全性に加え、買い物が楽しくなるような新鮮な情報を消費者に届けることを目指している。ただ、農家の多くは情報化が進んでいるとは言えない状況で、生鮮野菜の仕入れの情報をいち早く正確に知る仕組みの構築が経営課題として持ち上がっていた。

 このハローデイの悩みを聞きつけたのが、ICT化を支援しているNEC九州支社の営業担当者だった。担当者は、農業のIT化に積極的な農業生産者を紹介してもらえないかハローデイに頼み、紹介してもらったのはくしふるの大地だった。原価を把握したい農業従事者と、仕入れ情報を把握したいスーパー。両社の悩みをICTで解決することができれば、農業の再生の大きなヒントになるかもしれなかった。

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