【IT風土記】長崎発 離島活性化の起爆剤となるのか 電子化された地域通貨「しまとく通貨」の挑戦
特定の地域内に限って通常のお金と同じように使うことができる「地域通貨」。地域の経済やコミュニティーの活性化を期待して全国各地で導入されている。長崎県の壱岐島や五島列島といった離島の自治体が連携し、スマートフォンや携帯電話を使った電子地域通貨「しまとく通貨」の運用をスタートさせた。ITを活用した金融サービスのフィンテックを活用した地方創生の代表例として注目を集めている。
閑散期限定、スマホにスタンプをポンで決済
福岡市の北西約80キロの玄界灘に浮かぶ壱岐島は、古代から大陸と日本を結ぶ交通の要衝として長い歴史を刻んできた島だ。『古事記』の国生み神話で誕生した島の一つで、「邪馬台国」の存在を記した中国の歴史書『魏志倭人伝』にも登場する。島内には、歴史を裏付ける数々の神社や遺跡、豊かな自然に魅せられ、年間50万人以上の観光客が訪れる。
壱岐島の玄関口、郷ノ浦港から2キロほどのところにある「あまごころ壱場(いちば)」は観光客に人気の立ち寄りスポットだ。土産物の品ぞろえは島内で最大級。地元産品の販売コーナーのほか、地元名産のウニ料理などを堪能できるレストランがあるこの店も昨年10月から壱岐市などが始めた電子地域通貨「しまとく通貨」を導入した。
「しまとく通貨」の会計はちょっと風変わりだ。買い物をした観光客は会計の際、スマートフォンの画面を店員に提示する。すると、店員は電子スタンプを取り出して、スマホの画面にスタンプをポンと押す。電子スタンプは、スマホや携帯電話に直接タッチするだけでしまとく通貨を個別に照合し、使用済みとして処理する。
10月~3月の期間限定で販売され、購入できるのは、島外の観光客だけ。1セット5000円を支払うと1枚1000円のしまとく通貨6枚、6000円分が付与される。約20%のプレミアムがついている計算だ。専用ホームページに個人情報を登録し、島内にある販売所で5000円を支払うと、専用ページにチャージされる。1人当たり最大6セットまで購入が可能できる。
「スマホにスタンプを押すだけで簡単に決済ができるので便利。スマホに使い慣れた30~40代の顧客が利用している。比較的単価の高い商品を購入する時に利用されるケースが多い」と同店を運営する「あままごころ本舗」の船川勝治専務は話してくれた。
もともとは金券でスタート…高コストに耐えられない自治体も
しまとく通貨はもともと2013年4月から金券の形で発行されていた。当初は五島列島、壱岐島のほか、対馬や高島などの島々の自治体も参加。期間限定ではなく、1年中利用が可能だった。壱岐市観光商工課の篠崎道裕係長は「夏の繁忙には、在庫が足らなくなるではと心配することもあった」と語る。壱岐市では大手旅行代理店などと提携し、しまとく通貨を使った壱岐ツアーを企画。広島や関西からの観光客を呼び込み、大きな経済効果をもたらした。
だが、人気が高まるにつれて、さまざまな課題が浮き彫りになってきた。
加盟店は観光客から受け取った金券を現金化するまで1カ月近くかかり、「資金繰りに頭を痛める加盟店も多くあった」と、しまとく通貨を運営する「しま共通地域通貨発行委員会」(事務局・長崎市)の江口義信事務局長は振り返る。また、島内の住民が購入して利用したり、観光客が上限以上購入したりする不正もみられた。スタートから3年間で222万5000セット、約104億円を売り上げたが、印刷や保管のコストはばかにならなかった。
そこで着目したのが、電子化だった。しまとく通貨はすべてインターネットを通じてやりとりされるようになり、金券を印刷し、島に郵送する必要がなくなった。決済もスムーズに行われ、加盟店も資金繰りに困る苦労から解放された。
電子化がもたらす新たな可能性
電子化の導入で発行委員会も通貨の発行を観光客が減少する閑散期にしぼり込むなど戦略を転換した。利用額は紙の時代に比べ10分の1くらいまで減少したが、加盟店の中には通年での利用を望む声が根強い。また、スマホに不慣れな高齢者が使いにくいといった課題もある。しかし、「当時の混乱を考えると、今の仕組みをうまく活用した方がいい」(ビューホテル壱岐の吉田繁社長)と評価する声も上がっている。
電子化によって、金券では入手が難しかったさまざまな情報を集めることができる。性別や年齢層、個人客と団体客の利用割合、買い物や食事、宿泊費などの費目などだ。発行委員会では半年間で得られた情報を分析しながら利用者のニーズに合った観光戦略を検討する考えだ。
発行委員会の会長を務める壱岐市の白川博一市長は「壱岐市はしまとく通貨を活用したツアー商品が効果を上げているが、電子化によって、これまで以上に旅行会社からの新しい提案が増えている。一方で、五島列島には五島列島のニーズがある。データを分析し、観光客のニーズを調べながら、新たな呼び水となる施策を打っていきたい」と語る。離島を抱える全国の自治体も「しまとく通貨」の取り組みに注目し、電子地域通貨の導入を検討するところもあるという。「しまとく通貨の取り組みが全国の離島に広がれば、各地の離島との連携も可能になる」と江口事務局長。長崎の小さな島々から始まった取り組みが全国の離島を活性化させる大きなきっかけになるかもしれない。
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