市場拡大のシェアサイクルに追い風 注目集めるコインパーキングの拠点化

 
「PECOりん」の貸出拠点。名古屋駅から徒歩15分ほどで、観光客の利用が特に多い(スペース24提供)

 中国のシェアサイクル大手「ofo(オッフォ)」が、ソフトバンク・グループとの協業により、東京と大阪での事業展開を計画している。また日本勢でもメルカリが「メルチャリ」で、DMMが「DMM sharebike」で、それぞれ2018年を目処に参入を予定中だと報じられている。

 いっぽう東京では、NTTドコモが参画しての「自転車シェアリング広域実験」が数年前から継続実施され、都内7区(千代田、中央、港、新宿、文京、江東、渋谷)をまたぐ広域で利用可能となっている。そこに、中国の競合大手「Mobike(モバイク)」が17年8月、事業化のハードルを踏みこえて、札幌で実際にサービスを開始した。この海外勢初進出が刺激剤になり、日本全国の大都市でシェアサイクルの導入がじわじわと進む近未来図も見えてきた。

▽市場の普及にはきめ細かいステーション網が必要

 観光地のレンタサイクルとは違い、A地点からB地点へと、ステーション間を自在に移動できるのがシェアサイクルの強みだ。その利便性の高さから、鉄道網を補完するものとして、バスやタクシーと肩を並べる都市内移動手段となる潜在力も備えている。

 中国勢のモバイクやオッフォは同国内でここ数年のうちに爆発的に普及したわけだが、その裏にはスマートフォンひとつで解錠から支払いまでが済む簡便さに、料金の格安さ、街中のどこでも乗り捨てOKという使い勝手のよさがある。中国の都市は道路が全般に日本より広く、スマホ決済が日本よりはるかに普及しているという国情の違いによるものだが、急成長の余波というべきか、乗り捨てられた自転車が多くなりすぎて社会問題化しつつあるし、そうした自転車の回収と再配置にあたる下請け業者の労働環境はかなり苛酷で劣悪なようだ。

 そして路上乗り捨ては、駅前の放置自転車が長らく社会問題となってきた日本では、言うまでもなく論外だ。モバイクもこのたびの札幌進出にあたっては日本流を採り入れ、コンビニやドラッグストアをステーションにしているという。シェアサイクル利用者がついでに買い物をしてくれることも期待できるから、店舗の協力も得やすいわけだ。

 しかしシェアサイクルは、ステーション網がきめ細やかであればあるほど使い勝手が高まるものだ。ドラッグストアはそもそも店舗数が少ないし、コンビニは多いにしても駐輪スペースに余裕のある店舗ばかりとは限らない。そこで、それら以外に都市内で貸し出しステーションとして有望な施設はないかと調査したところ、コインパーキングの一角にレンタサイクルを並べている事業者が見つかった。

 なるほどコインパーキングか。母数としてはコンビニよりも多いくらいだし、しかも路地裏も含めてまんべんなく市街地に点在している。それらを拠点として活用できるなら、シェアサイクル計画を絵に書いた餅に終わらせず、定着につなげる一助となるに違いあるまい。そう考えて、事業者を取材することにした。

▽3県のコインパーキングで事業展開するレンタサイクル

 スペース24は、全国にコインパーキングを展開する事業者だ。同社は「PECO」という会員サービスの一環として、レンタサイクル「PECOりん」をサービス展開している。

 レンタサイクルの利用方法や拠点一覧、料金については、同社広報ブログのこちらの記事(http://kouhou24.blog.fc2.com/blog-entry-256.html)をご覧いただきたい。特筆すべきは、貸出手続きから決済までをスマホで処理することで無人サービスを実現していることだ。

 貸出拠点は、静岡県内に3カ所(JR東海道本線の東静岡・愛野・高塚各駅前)と、愛知県内に7カ所(名鉄犬山線の岩倉~江南~扶桑の各駅前を中心とした6カ所に加えて、名古屋駅から徒歩圏内に1カ所)、そして広島県のJR宮島口駅前の1カ所からなり、自転車台数はおおむね5台程度(4~9台)となっている。

 「14年頃に『駐車場のデッドスペースの有効活用』という観点から社内発案があり、情報収集と実態調査を経て事業化しました。車1台分くらいのスペースがあればよく、初期投資費用も数十万円で済むため、社内ベンチャーとして挑戦しやすい事情がありました」(スペース24経営戦略本部戦略開発課の本田世界氏)

 そのレンタサイクルの利用実態だが、コインパーキングに車をとめて自転車に乗り換える人は思ったほど多くはなく、近所の人や観光客が徒歩で利用する例が目立つという。特に名古屋駅近くと、広島県の宮島口駅前の拠点はもともと観光客が多い土地柄であり、駅前ロータリーに面しているわけでもないのに、わざわざ選んで来てくれるそうだ。

 「SNSで情報発信しているのですが、検索で見つけてくださる方が多いようです」(本田氏)というから、レンタサイクル需要と供給の不一致が背景にあることもうかがえる。

 ちなみに愛知県の名鉄犬山線沿線には複数の拠点が近隣に固まって所在するが、これはスペース24単独の民間事業であるため、「拠点A→拠点B」の片道利用には対応していない。やはり回収と再配置の人手とコストが壁になっているようで、ただでさえ自転車のコンディション維持のために毎月1回業者にメンテナンスを依頼する費用がかかるところに、毎日の人員投入が必要になる再配置までをする余裕はないということだ。

 しかしこれが1社による民間事業ではなく、東京での実証実験のように自治体が主導するものだったらどうだろう? スペース24のような複数企業の拠点を広域ネットワーク化して利便性を高めることも可能なのではなかろうか?

▽名古屋市で行われていたコミュニティサイクルの社会実験

 じつはスペース24の本社とレンタサイクル拠点のある愛知県名古屋市では、2006~10年にかけて「名チャリ」という社会実験が実施されていた。同市では年間約8万台(07年度)の放置自転車を撤去し、そのうち約3万台を廃棄していたが、そうした放置自転車の一部をコミュニティサイクルとして再利用することから始まった社会実験だ。

 09年には名古屋駅から繁華街の栄地区までの東西2kmほどの範囲内に30カ所の拠点を設け、自転車300台(新品200台/リサイクル100台)を用意した。全国最大規模の社会実験となったその年には登録者約3万人、総利用数約9万9000回、1台/日あたり平均5.5回という成果を挙げたが、翌10年にはサービスを有料化したことで登録者は2000名弱に急減、利用回数も前年の三分の一程度に減少した。ただし1名あたりの利用回数は3.2回/人から13.8回/人と大幅に増加しており、リピーターが定着する兆しも見られた。

 この社会実験は10年をもって終了し、現在では同実験に参画した株式会社蔦井が事業主体となり、栄ミナミ地区に範囲を絞っての「でらチャリ」というシェアサイクルが展開されている。

 これが以前の「名チャリ」のような広範囲に拠点を設け、スペース24のような民間事業者が独自に展開するレンタサイクル事業も取り込んでさらに規模を拡大すれば、名古屋都心部の移動手段として有望な存在たりうるようにも思える。ただし、そうなると自転車での移動が便利になりすぎて、民業圧迫の側面が出てくることもまた確かだ。

 先にも述べたように、シェアサイクルにはバスやタクシーのライバルたりうる潜在力がある。シェアサイクルが爆発的に普及してバスやタクシー会社の倒産が相次ぐようでは、都市政策としては本末転倒、落第のそしりを免れないだろう。

 シェアエコノミーの双璧である米ウーバーや民泊仲介最大手の米エアビーアンドビーの場合と同じく、誠実に法令を順守してきた既存事業者との住み分けにも目をくばることが欠かせないのだ。そうした課題があることは確かだが、バスやタクシーの隙間を埋める移動手段のニーズが高いこともまた確かだ。眼前のハードルを一つ一つクリアして、シェアサイクルがこの国に根付いていくことに期待したい。(待兼音二郎/5時から作家塾(R))

 《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。