店員全員が「すいません!」 不思議すぎる焼肉屋で遭遇した「ダメ謝罪」
【ニッポンの謝罪道】
不思議すぎる店に行ってきました。何が不思議かって、3人いる店員全員が最初から最後まで私たちに謝り続けているのです。店に入ったときから出るまでの1時間で30回ぐらいは謝罪されたと思います。あまりにも不思議な店だったのと、これは「謝罪道」的には「やりすぎ」であるのに加え、「社会人は結果がすべて」という事実を改めて突きつけたので、今回報告します。
店員全員が「すいません!」を連呼
いや、直感的にイヤな予感はしたんですよ。とある休日の17時、突然焼肉が食べたくなり、某駅の一番の人気店・Aに電話しました。「18時半から大丈夫ですか?」と聞いたところ、「21時なら大丈夫」と言われました。それはさすがに遅い。そこで、食べログを見たのですが、同エリアで残る店は2軒。1軒は以前行ったことがあるのですが、とにかく肉がまずい。そこで、それまで知らなかった店・Cに電話をしたところ「18時半はまだ席が空いていませんが、19時でしたら大丈夫だと思います」と言われました。17時の段階で満席ってなんちゅー店だ? そこまで人気があるのか? そして、30分違えば大丈夫ってどういうことだろうか……。そんな疑問も抱きました。
そこで19時に店へ着いたところ、まだ席は空いておらず、60歳ぐらいの女性店員(恐らく店主の妻)が、「まだなんですよ……。もうすぐ空くとは思いますが……すみません、すみません!」と言ったので、私たち2人は店の外で待つことにしました。数分後、私たちが立っているのを見た彼女は椅子を一つ持ってきてくれました。
「すいません、すいません、これ、使って下さい!」
この丁寧な対応には「そんな、お気になさらないでください。わざわざありがとうございます」とお礼を言いました。19時10分頃に3人組が後ろからやってきて、彼らのうち1人が私に「待ってますか」と言い、「はい」と答えたところ、彼はとりあえず目途を聞きに中に入りました。彼が戻ってくると仲間には「それどころじゃない店だった。行こう」と言いました。
「それどころじゃない」とは一体なんなのかがこの時点では分からなかったのですが、彼は「このままではしばらくは無理だな」と判断したのでしょう。こちらは席待ちの1組目なので、待つことは継続したのですが、19時21分、さすがに長いと感じ、同行者が目安を聞きにいきました。すると「3分」と件の店員は言います。結果的に19時27分に席に通されたのですが、3人いる店員全員が私たちに「すいません」と頭を下げるのですよ……。
恐縮しすぎの店員に「逆に恐縮」
この店、驚くことに全テーブルが子連れでした。全席子連れの焼肉店というのは初の体験だったのですが、恐らくは近所の人々の間で「子連れにやさしい焼肉店」という評判が立ち、こうした状況になったのかもしれません。店の紹介文にも「子供から高齢者までお楽しみいただけます」「子供の進学祝いに焼肉をどうぞ」みたいなことが書かれてあるわけですね。だからファミリー層を重要顧客としていることはよく分かりました。何かと気を遣いがちな小さな子連れの家族からすれば助かるお店なのでしょう。そんなわけで若干私たちが場違いな感じになってしまったのですが、奥の席に案内されている間、店員から頭を下げられ、席に着いてからも「すみません」と言われます。
もう恐縮するのはやめていただきたいので、すぐに「生ビール2杯とナムルとタン塩……」と注文をしたところ、「すみませんねぇ」とまた言われる。ビールはすぐにやってきたのですが、そのとき、彼女は「お待たせしたので、このビール、サービスします。本当にすみませんでした」と言いました。「そんなことしないでいいですよ~」と言うなど、あまりにも彼女が恐縮を続けるものですから、こちらも恐縮するというワケの分からない展開になってきました。
そして、肝心の味なのですが、「うん、このモヤシのナムルウマいね」「タンもおいしい!」などと私たちは言い合うのですが、互いに本心ではないことは分かります。
「せっかくの休み、しかも外に並んでまで待って入ったんだから、この店での体験を満足したと思い込みたい」
こんな気持ちから、我々の間では店をホメ合い、「我々の選択肢は正しかった」とやりたいと思ったわけです。
混乱続きで「この店を選んで良かった」ホメ合いも崩壊
しかしながら、暗雲が立ち込めたのは隣の席の客と店員のやり取りを聞いたときからです。穏やかそうな夫と美人な妻にかわいい赤ちゃんの3人家族でした。夫はにこやかな表情を浮かべているのですが、なかなかチヂミが来ないことに対し諦めムードが入っています。
「忙しいんだねぇ」
「そうだねぇ」
と夫妻でやり取りをしていたのですが、ようやく来た別の店員に「もしチヂミの注文入が入っていて、まだ作っていない場合は、キャンセルでお願いできますか?」と言いました。店員は「すいません!」と言い、踵を返し確認に行きます。よくあるじゃないですか。締めの炭水化物を頼んだところ、なかなか来ないものだからいつしか満腹中枢も満たされてもう食べなくてよくなることって。だったらキャンセルして、少し会計を安くするほか、さっさと店を出るか、みたいな気持ちになるものです。
店員が慌てて戻ってきたところまだ作っていないとのことで無事キャンセルに。店員は再び「すみません!」と言います。
ここから先、混乱が続くんですよ。ビビンパや冷麺が次々と彼らの席にやってきて「注文していません」となり、店員は我々の方を見る。我々も「注文してません」と言うとこれまた「すいません!」が来る。会計時には、隣の夫妻のところに注文したものを一つずつ確認するような混乱状況に。
そして、我々のところにも頼んだものが次々とやってきます。幸いなことにミスはなかったものの、肉がとにかく「無難」という言葉しか出ず、年数回の焼肉に行ったときの「うわっ、なにこれ、ご飯に巻きたくなる、やべー!」という気持ちに一度たりともならず、「あぁ、コレか……」という状況でした。一つの皿については、無難どころかマズく、一人一切れ食べたところで20分前までの「私たちはこの店を選んで良かったプレイ」が崩壊し、「これからは正直に話そう」モードに入りました。
“すいません”なんていらない
偽りの仮面を脱ぎ、「あのさ、これ……、おいしくないよね……」「そ、そうだよね……。言いづらいけどさ……」と正直に述べました。「昨日行ったしゃぶしゃぶと金額変わらないけど、満足度は10分の1以下だよね……。ビールはよく冷えてておいしいけど……」。こんな感想を述べてしまったことの罪滅ぼしというわけでもないのですが、追加のビールと焼酎の水割りを頼み、店員ににこやかに「お願いしまーす!」なんて言います。
そして、店員としても「最初に約30分待たせた」という負い目があるせいか、もはや互いに「すいません」と言い合う謎過ぎる展開になってしまいました。結局「味」の問題により、追加の肉を頼むことはなく、20時30分には会計をすることになりました。
すると驚いた。私たち以外に客は誰もいなくなっていたのです。恐らく、どこのテーブルも子供達は早く寝なくてはいけないため、20時にはお開きということだったのでしょう。
さっきまでの喧騒は一体なんだったのだ、と思いつつもその表情を見逃さなかったのか、例の推定年齢60歳の女性店員がこわばった笑いを浮かべながら「すいませんね、まだ店が開いてそんなに経ってなくて、私もね、この仕事をやる前までは事務の仕事をしていたので、まだあんまり慣れてなくてね。すいませんね」と言います。
会計を終えたのですが、確かに「サービスしますね」の言葉通りビール2杯分は含まれていない。そして、外に出ようとガランとした店内を歩くと店員全員が「すいません」と頭を下げるのでした。そんな風に見送られるのはいたたまれない気持ちになり、なぜか我々も頭を下げながら「すいません」と言い続け、外に出てようやく「フーッ」と一息つき、この謎の「すいません焼肉屋」から解放されたのでした。
店も客も「すいません」と言い合うことほど無益なものはありません。で、冒頭で「社会人は結果がすべて」と書きましたが、これの真意は「この値段取るんだからもっとウマいもの出してくれよ~。“すいません”なんていらないからさ~」という心の叫びにあります。
【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。
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【ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は隔週水曜日。
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