【高論卓説】対話能力を上げるには 「適度に目を見て、目線を下」で好印象

 

 身につけたいスキルをパーツ分解しコア(核)スキルを反復演習する「分解スキル反復演習型能力開発プログラム」により、リーダーシップ向上をサポートしていると、コミュニケーション(対話)能力を上げたいという要望に接することが多い。

 これを分解していくと表現力、中でもアイコンタクトのスキルが、コミュニケーション能力に影響していることが分かってきた。アイコンタクトのスキルをさらに分解して、相手を見つめ続ける秒数を見極めていく。相手をひき付ける効果が最も高いアイコンタクトの秒数を体得するのだ。

 実施することは、2人1組になって1分ずつ自己紹介し、自分の紹介を自分のスマートフォンで録画し、自分で視聴することだけだ。視聴する際は、自己紹介の内容や声の良しあしではなく、相手を見つめて、目をそらすまでの間、何秒、相手を見続けて話していたかということを計測していく。

 年間3000人が参加して演習をしているが、1秒から10秒を超える長さまでアイコンタクトの秒数は大きく分かれる。そして、アイコンタクトが長い場合と、短い場合とで、聞き手から見るとどのような印象を持つか、自分のビデオを視聴しながら感じ取る。

 アイコンタクトが長過ぎると、「押し付けられている」「圧迫感がある」「売り込まれそうだ」という感想が多い。逆に短すぎると、「よそよそしい」「真剣さが感じられない」「興味がなさそう」という印象を持つ人が多い。最もひき付けられやすいアイコンタクトの秒数は2秒から3秒だ。2秒から3秒でアイコンタクトを外すと、好印象を持たれる。ただ顔立ちによって、穏やかな面差しの人は、より長いアイコンタクトでも圧迫感を与えることはなく、いわゆる顔の濃い人はより短めの方がよさそうだ。

 次に、相手から視線を外すときに、どの方向に外したら良いかということを演習する。まずは実際に自分がどの方向に外しているかということを、録画したビデオを視聴して確認する。これも上、斜め上、横、斜め下、下と、日本のビジネスパーソンが実際に外している方向は均等に分かれる。

 自分がさまざまな方向へアイコンタクトを外しているビデオを視聴してもらいながら、それぞれの方向に外しているときに、聞き手の立場になってみると、どのような印象を持つか感じ取る。上に外すアイコンタクトは「何かを思い出しているようだ」、斜め横は、その位置に時計や窓があることが多いからだろう「時計や外を気にしているようだ」という印象を覚える人が多い。横は、「ノー」のボディーランゲージが伝わるためか「相手を否定しているようだ」、斜め下は「自信がなさそう」という声が多い。つまり、アイコンタクトは、2、3秒で、下に外すことが、相手に好印象を与え、相手をひき付けやすくなるのだ。

 ここまで、実感したところで、2、3秒でアイコンタクトを下に外しながら、自己紹介、業務紹介、実際の商談話法を繰り出す演習を反復すると、それだけで見違えるように相手をひき付けやすくなる。衆院選の最中であるが、街頭演説をしている立候補者のアイコンタクトの秒数と、外し方を観察してみることをお勧めする。聞き手をひき付ける候補者は2、3秒で下にアイコンタクトを外している場合が多いはずだ。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年8月にモチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に「チームを動かすファシリテーションのドリル」(扶桑社)。55歳。長野県出身。