薬の飲み残し、薬剤師が訪問指導 回収し再処方、医療費抑制と症状悪化防止に

 
飲み残しを防ぐため、服薬カレンダーや手作りの薬箱を用意する薬剤師の宮野広美さん(右)と小平幸恵さん=6月、埼玉県伊奈町

 医師から処方された薬を大量に飲み残す「残薬」。医療費の無駄遣いにつながるだけでなく、症状が悪化する恐れもある。どうすれば飲み残しを防ぐことができるか。薬剤師を中心とした取り組みが広がっている。

 約5割「つい忘れて」

 「薬、ちゃんと飲んでますか。水分とってる?」。埼玉県伊奈町のアパートの一室。薬剤師の宮野広美さん(59)と小平幸恵さん(49)が、この部屋に1人で暮らす男性(80)に話しかけた。男性は体調を崩して5月に入院。退院後も心不全や血圧などの薬7種類を処方され、毎朝1回服用するよう指示された。

 伊奈町などで調剤薬局を営む宮野さんは、主治医の依頼で訪問指導を開始。毎回飲む錠剤を分かりやすく1袋にまとめ、袋ごとに日付や「朝食後」と大きく印字。飲んだ後の空き袋を捨てずに指定した箱に入れるよう男性に頼み、訪問時に確認できるようにしている。

 「1週間前に訪れた時は2日分飲み忘れていたが、今回は大丈夫」と宮野さん。男性は「自分では時々分からなくなる。来てもらえて安心だ」

 埼玉県薬剤師会が高齢者ら150人を自宅訪問して調べると、全員に残薬があり、大量に見つかったケースも。最も多かった理由は「つい飲み忘れてしまう」(49.5%)で、「症状が改善した」「薬が多すぎる」などが続いた。

 特に高齢者は10種類前後の薬を長期間飲み続けなければならないことも多く、介護保険や医療保険の服薬指導を利用できる。宮野さんらは自宅やグループホームに住む患者計25人を担当。飲む時間ごとに手作りの薬箱に仕分け、目立つ場所に置くなど工夫する。「薬をどう飲んでいるかはその人の暮らしを見ないと分からない」

 薬の飲み残しは健康影響だけでなく「医療費の無駄遣い」との指摘もある。日本薬剤師会が75歳以上の在宅患者約800人を対象に行った調査では、飲み残しで無駄となる薬剤費は年間約475億円との試算が出た。薬剤費の自己負担は最大でも原則3割。残りは公的保険で賄われている。

 70万円分の無駄削減

 こうした中、患者に残薬を薬局に持ち込んでもらい、チェックする対策も始まった。

 福岡市薬剤師会は2012年から「節薬バッグ」という回収袋をつくり、了解を得た市内31薬局の利用者に計1600枚を配布した。約3カ月間で252人が計約84万円分の残薬を持参。医師と連携し、同じ薬の服用が必要な人には、本人が持ち込んだ薬で安全性が確認できたものを次の処方分に充てた。その結果、約70万円分の無駄が削減できたという。

 同会は「バッグがあることで患者の意識も高まる」として既に22万枚を配布した。神奈川県横須賀市や福井県も同様の取り組みを行っている。

 日本薬剤師会の田尻泰典副会長は「これまで薬剤師は薬を渡すだけで済ませていた。患者のその後のケアをするという本来の機能を果たしていけば、残薬問題は解消されていくはずだ」と話した。