【視点】人生100年時代 定年女性の再就職を充実せよ

 

 □産経新聞論説委員・河合雅司

 厚生労働省の簡易生命表によれば、2016年の日本人の平均寿命は女性が87.14歳、男性は80.98歳だ。ともに過去最高を更新し、香港に次いで世界2位である。

 2016年生まれが90歳まで生きる割合は、女性が49.9%、男性は25.6%だ。95歳まで生きる割合も、女性25.2%、男性9.1%に上る。「人生100年時代」と言われるゆえんである。

 平均寿命が延びた背景には、健康志向の高まりや医療の進歩により、がん、心疾患、脳血管疾患などの死亡率が下がったことがある。医療技術の向上で、さらに長寿大国になる可能性がある。

 「人生100年時代」にどう備えていくのか。第1の課題は平均寿命と健康寿命の差をどう縮めていくかだ。内閣府の「高齢社会白書」(2017年版)によれば、健康寿命は2013年時点で女性74.21歳、男性は71.19歳で、相変わらず大きな差がある。厚労省の「国民生活基礎調査」によれば40~74歳で健康診断や人間ドックを受けた人は71.0%だ。健康に留意する人が増えれば差は小さくなる。

 豊かな老後を過ごすには収入も重要だ。公益財団法人「ダイヤ高齢社会研究財団」が7月に発表した40、50代の正社員を対象とした調査によれば、自分が何歳まで生きると考えているかを示す「想定寿命」は女性78.8歳、男性77.7歳だった。

 多くの人は自分の人生をかなり短めに見積もっているのである。簡易生命表によれば50歳女性の平均余命は38.21歳で、想定寿命と9.41歳の開きがある。男性に比べて寿命が長く、自分の想定以上に長い老後を念頭に置いて準備せざるを得ない。

 では、どうしたらよいのか。老後の生活資金の主柱といえば、多くの人は公的年金であろう。老後の長さを考えれば少しでも受給額を増やしたい。そのためには、働けるうちは働いてできるだけ受給を繰り下げることだ。政府には、一定以上の勤労収入がある場合に年金受給額を減らす在職老齢年金制度の廃止が求められる。

 とはいえ、収入のあてもなく受給開始年齢だけを繰り下げるわけにはいかない。そこで考えなければならないのが定年後の再就職である。

 ところが、女性には厳しい現実が立ちはだかる。第一生命経済研究所が定年前後に再就職した60代に調査を実施しているが、男性は「退職前から決まっていた」が36.8%、「満足できる再就職先がすぐに見つかった」が30.3%と、約7割はスムーズに決まっている。一方、女性は22.2%、17.8%と苦戦ぶりがうかがえる。

 男女の差が生じる要因としては企業側の責任も小さくない。男性は「前の勤め先が紹介してくれた」が26.3%なのに対し、女性はわずか4.4%にすぎない。

 50代後半の女性の53.0%は勤務先から定年後の仕事に関するアドバイスや情報提供を受けておらず、多くはハローワークや友人・知人、インターネットを使い、自ら情報を集めているのである。こうした状況を見越してか、定年前に60歳以降も働ける会社へ転職したり、起業に踏み切ったりする女性は増加傾向にある。

 一方、一つの会社に勤め続ける人も珍しくなくなった。厚労省の「雇用均等基本調査」(16年度)によれば課長相当職以上の管理職の12.1%は女性だ。1986年の男女雇用機会均等法の施行以降、結婚や出産後も働き続ける女性は徐々にではあるが増えてきている。

 男女雇用機会均等法の施行年に四年制大学を卒業して就職した女性の多くが2023年には60代に突入する。この世代は途中で退職した人も少なくないが、彼女たちより少し後の世代は働き続けている割合が増えてきている。今後の日本社会には、かつて経験したことのない規模で女性の定年退職者が登場するということである。

 企業には女性が定年退職まで働くことすら、あまり想定してこなかったところもある。だが、平均余命の長さを考えたとき、定年女性の再就職の受け皿をしっかり整えなければ「人生100年時代」を乗り切ることはできない。政府を含めた「女性の定年後対策」が急がれる。